山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     変わりゆく台湾の波高し

2010年12月09日

反日姿勢を強める台湾

弊誌305号「台北駐日代表処は反日予備軍か」の当コラムに読者の方々から多くの反響が寄せられた。「私は台湾が大好きです。中国による台湾の統一工作は講演会やネットで知っていましたが、このコラムで台湾の日本窓口である代表処が反日姿勢を強めていると知り、驚いています」など多数の意見が寄せられた。そこで今回はさらに別の角度から馬政権の反日活動について意見を述べたいと思う。

「一つの中国」原則に基づいて中台経済の一体化を進めてきた馬英九総統は、外省人の家庭に生まれ、香港生まれの台湾育ちである。父は蒋介石国民党政権の大幹部であり、国民党の悲願である「統一志向」が中共を吸収して「一つの中国」を統一するというものだ。それゆえ、「一つの中国」という目標と原則は中共と共有できる。

戦前、蒋介石国民党軍は中国南京で日本軍と戦い多くの死者を出している。国民党は日本軍との戦争で戦力を消耗したうえ、毛沢東の中共軍と戦い、力尽きて台湾に逃れた。国民党は台湾の地で中華民国政府を樹立したが、「反抗大陸」をスローガンに掲げ「一つの中国」を国是としたものである。

台湾の対中合体政策

馬氏はいまだに国民党が中国や台湾を代表する正統な政権だと主張するが、民主化した現在の台湾人にとって迷惑な話であり、非現実的だ。中国は広大な陸地面積と人口を持つ軍事大国であり、独裁・専制主義の共産主義国家だ。台湾が築き上げた「自由と民主主義、人権と法治国家」という価値観との相違は明白となる。これは台湾人意識が欠落した政治論争に他ならない。

馬政権は中台合体策として、まず経済の一体化を進めた。最後は「政治・軍事交渉」のテーブルにつくか否かである。中国は台湾メディアへの投資、買収を通じて台湾世論をコントロール下に置いた。馬政権が尖閣問題で中国と共同歩調をとり、にわかに反日行動を示し始めたのは、馬政権が水面下で台湾の中国化に原則として合意したと国民の大勢は疑っていよう。

次の総統候補は誰か

中台関係は「一つの中国」という原則を確認、合意したうえで経済の中国寄りに傾斜した。両国はさらなる次の段階に駒を進めている。これに対して民進党の蔡英文主席は日台協力委員会議員団との会見で「中国との関係は無視できず、調整をとりながら関係安定を目指す」と述べた。いまや台湾野党ですら中国の力を無視できないほど中台関係の絆は深い。

台湾5都市市長選挙はポストの獲得数で与党国民党が3、野党民進党が2となり現状維持であった。しかし、総得票率では6年ぶりで民進党が国民党を上回る。これは2012年の次期総統選での政権奪還に向けた足場を固めたといえよう。今回選挙は与党の中国寄り政策が功を奏した景気好転と国民党有利な選挙制度で与党有利に働いた。台湾の中国化の実現阻止は次期総統選での台湾人民の選択に問われている。

台湾中国化に距離を置く

馬政権の「一つの中国」を前提とする対中寄り経済振興策は順調である。馬政権の対中経済政策は①中台間の直行定期便の開設②FTAなど「自由貿易区」の構想③中国人観光客の受け入れ━ 他であった。これら馬政権の要請を中国側はすべて受け入れている。

今後台湾への中国人観光客は2008年の100万人から、2012年には300万人に達する見込みだ。中台の直行定期便開設で中国人観光客の訪台が容易となり、最近台北市は中国人観光客で賑わっている。日台間では日本から100万人、台湾から日本に113万人が訪れているが、近い将来中国人観光客に追い抜かれよう。

一方、香港も中国人観光客で賑わっている。表面的には香港の「一つの中国」化はうまくいっているかに見えるが、実際は中国共産党の独裁体質が香港人民に忍び寄り、香港の自由な気風に少しずつ軋みが見え始めた。つまり、北京人の香港統治は共産化が顕著だというわけだ。しかし、台湾人は経済とは別に馬政権には懐疑的で、中国離れの気運がある。台湾人の大勢は経済のために決して「国家」の自由や民主主義を犠牲にしない。

中台経済協力の成果

馬政権の誕生以来、中国接近策が進み、台湾の中国化が露骨になった。馬政権の対中政策は「一国二制度」を受け入れた香港と同じとの見方がある。馬政権の政治目的は「両極統一」であり、次は中台の和解による政治決着しかない。

かつて中国政府は陳政権に「一つの中国」を認めれば直接対話も考えるとしたが、馬英九政権は中国原則に合意した。それ以来中国は陳政権で見せた強硬姿勢を軌道修正して台湾との微笑外交、融和政策をとり、台湾住民の対中不信感の払拭に注意を払っている。

中国の温家宝首相は「一つの中国」原則を堅持し、「祖国の平和的統一を勝ち取る勢力を決してあきらめない」と公言した。中国は船舶と航空機の直行便実施、観光客受け入れ拡大、ECFA等々台湾側の要求を次々に承認、実行した。台湾メディアも「中華民族」「同胞」という柔らかい表現を用いて台湾人を刺激しないよう気遣っている。次は台湾側が中国側の要求に応える番であり、馬政権は裏で中国と同じ反日行動をとることで中国共産党に従順な姿勢を見せ始めたというわけだ。

報じられなかった台湾巡視船の尖閣侵入

2008年6月、尖閣諸島付近の日本領海で台湾の遊漁船が日本の巡視船と接触、沈没した。これには台湾海上保安庁に当たる行政院(内閣)の巡視船が同行した。台湾の巡視船による日本領海の不法侵入は重大事であるが、日本側の政治やメディアはこの問題に蓋をして大きく取り上げなかった。これは今回の中国漁船の衝突事件の比どころではない。

事件直後の6月18、19日の台湾メディアは対日批判を過熱させ対決姿勢を煽った。台湾メディアは、尖閣諸島に向け軍艦やヘリコプターの出勤を準備したと報道。さらに日台間で戦争が起こるとの前提で恐怖特番を垂れ流し、日台軍事力の比較などで対決姿勢を煽り、対日世論を反日に変えようと画策した。しかし、反日騒動の結果は馬氏の人気を下落させている。この事件は馬総統の本性である反日姿勢、敵対心を露わにする事例の一つであった。

台湾政府筋情報は馬政権が尖閣で中国と共同歩調をとり、対日批判を過熱させたのは、中国に忠誠を誓う姿勢かと見られた。馬政権は事故発生直後に日台関係の悪化に配慮する発言を行ったがこれも計算のうちである。反日家としてことあるごとに問題を起こす馬総統の体質と思想的根源は民族主義者として活動したかっての成長過程にすべてを読みとることができよう。

馬政権の日本重視とは嘘

馬政権は政権発足以来、尖閣諸島は中国固有の領土と言い、中国と共同歩調をとってきた。しかも、馬政権内では劉行政院長(首相)が、「日台開戦の可能性も排除しない」と表明した。

反日思想家の馬氏に見習い、台北駐日代表処の馮寄台代表が反日路線を継承するのは当然の帰結である。馬氏は反日発言や行動の後は必ずメディアを通じて「日本重視」を日本側にアピールした。しかも、反日をカモフラージュするため、馮駐日代表を伴って記者会見を行い「日台は実質的な関係であり極めて密接な関係」と見え透いた「嘘」を演出した。心は反日でも言葉は親日のポーズをとる中国式二重構造が馬政権の政治手段である。しかし、馮駐日代表の就任以来、日台関係が険悪となり、反日が露骨になったという現実に日台両国民は心配している。

馬総統は強硬な反日家だ

表面は親日的に振る舞い、裏では親日から抗日へのカーブを切る馬政権である。馬氏の反日語録は「尖閣諸島は台湾のものであり、実力行使に踏み切る」「台北市長時代、市議会に抗日記念館建設案を提出した」「小泉首相の靖国参拝に反対した」「台湾の従軍慰安婦千人以上が日本軍に騙された」「日本軍国主義は許しても対日侵略の歴史的事実を認識せよ」等々、中国共産党の反日主張を代弁した。馬総統の発言は親日でも行動はどこまで行っても反日だとあらためて強調する。

かつて馬氏が台北市庁舎広場で民主党議員27人の前で行ったわが国先人たちを侮辱する過激な演説は民族運動家の反日演説であり、わが国の参加議員はいまだに怒りを露わにする。馬総統と馮駐日代表は根っからの反日遺伝子を持つ中国人だとの見方が大勢だ。つまり、彼らが「日本重視」論を語るときは反日行動の行き過ぎを修復する姿勢だと思えばよい。

今後、馬政権は次期総統選に向けて中台経済の蜜月関係のもたらす経済的効果をアピールしよう。さらに大型の観光団を台湾に送り込んで消費の活性化が期待できよう。また警戒心を取り除くために、中国ミサイルの撤去も考えられる。しかしこのまま経済の好転は長く続くものではない。とはいえ、残された2年間で中国はあらゆる方策を用いて馬総統の再選に向けた支援を惜しまないであろう。変わりゆく台湾の波はゆっくり大陸に向かいつつある。

次回は12月24日(金)です。