山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     台北駐日代表処は反日予備軍か

2010年11月18日

今年に入って台湾を取り巻く政治環境の変化が著しい。日台関係はこれまでのような友好関係から中国と同じ反日関係に様変わりしつつある。馬英九政権は、表向きは親日的な発言やポーズを見せ始めているが、実質的には反日姿勢の正体を暴露しつつある。たとえば、最近、台北駐日経済文化代表処に対する評判がすこぶる悪い。馮寄台代表の対日方針は親台湾派との関係を切り捨て始めたとの話題で持ちきりだ。

つまり、これまで日台関係に深い関わりを持ってきた人たちとの関係断絶だ。馮代表に会見を申し込んでも、ほんの一握りの者以外は、ほとんどが断られているようだ。これまで日台間で築かれた慣習やルールを打ち破り、一方的に親台湾派との関係を断ち切るもので、特に今年に入って顕著である。民主党議員らも駐日代表処の変わりように驚きを隠せない。

これまで歴代の台湾駐日代表が就任すると、まずわが国の親台湾派議員や民間団体など人間関係の継続が大きな仕事であった。しかし、もうそんな必要はないとの方針転換が露骨だ。ある台湾関係筋によると、馮代表は民進党や李登輝関係の団体関係者らのパーティにも出席せず、それどころか彼らと代表処との関係断絶を強化し始めていると聞く。

馬氏をかばう駐日代表

2008年9月、馮代表になって台湾代表処が反日拠点になったとの声が喧しい。例えば10月、安倍晋三元総理が訪台した。台北代表処に蔡英文野党民進党党首との会見を申し入れたが、スケジュールの都合を理由に断られた。安倍氏は地元の関係者を通じて連絡を取り、自前でタクシーをチャーターして蔡氏と会ったと聞いている。一国の元総理に対する無礼な扱い方は台湾国会でも問題になった。ここにきて、自民党議員らも駐日代表処の親台反中派切りを理解し始めたようだ。

しかしながら、産経新聞(10月7日付)で馮氏は、「馬氏は台日関係をきわめて重視しており、これまで70組もの日本からの訪台団と会い、日本との緊密な関係の重要性を強調してきた」と毎回、馬氏の親日姿勢を喧伝している。馮氏の論調は馬氏と中国寄り政策の言い訳ばかりで、駐日代表としての良好な対日関係の理念と誠実な政治姿勢が何も伝わってこない。

馮氏がいくら個人的に馬氏をかばっても、氏が反日家である決定的な事実と根拠がある。2001年に訪台した民主党議員団らに当時台北市長の馬氏は「日本は過去の歴史を鑑として深く反省すべきである。靖国神社参拝は(台湾人)被害者に苦しみと痛みを与え、心を深く傷つけた」等と強調。27名以上居並ぶ民主党国会議員の前で延々40分以上にわたってわが国の歴史を侮辱し、訪台団を唖然とさせた。馬氏が本質的に反日家であるとの体験をした者にとって、馮代表の馬氏親日論評は間違いだらけだ。中国人は「真実を嫌い嘘を好む」と言うが、馮氏のデタラメな新聞投稿は即刻止めるべきだとの声が強い。

馬政権は中台統一に走る

中国は台湾を自国の領土と断定し併呑すると言明した。それに対して、馬英九総統は中国側の意向を受け入れ「台中相互信頼を樹立した」と発表。これは中国共産党の経済・文化・政治社会の全面的な統一戦略を受け入れるものだ。これは台湾国民党と中国共産党による中台併合の前提合意に他ならない。

馬政権は中国寄り経済政策を打ち出し、中国なしでは国家が存立しえないとの錯覚と既成事実をつくりつつある。中国が台湾を併呑する前提として、①経済的な統一、②マス・メディアの支配、③政治的交渉の3段階があり、すでに2つの段階は終わり、あと1つを残している。いま台湾経済の好況は中国より一体関係によるものと喧伝中だ。

台湾の中国化政策はこれまでの日台関係を大きく変えるものであった。外省人の総統と駐日代表が就任したことで、台湾代表処の対日政策は明らかに中国化している。それに伴い親日的であった台湾代表処の職員も、馮代表の顔色を見ながら意向に沿った発言と行動が目立ち始めた。このように、台湾に変化と危機が迫り来ていることに、その危機すら察知しない台湾関係者のみならず、野党民進党の議員らが中国寄りの行動を競い合う始末だ。

2012年に台湾を陥落

筆者は以前弊誌で新書「台湾大劫難」を紹介した。これは2004年4月にオーストラリアに亡命した北京大学法学部の教授、袁紅氷氏の著書だ。袁氏は中国が2012年までに台湾を全面的にコントロールして陥落させる計画の極秘文書を入手し、台湾併合工作を暴露する目的で出版した。

中国の台湾陥落作戦は、2012年までに台湾を全面的に支配下に置き、闘わずして台湾を奪取する計画だ。これは胡錦濤主席をはじめ、中央政治局員、外交部、公安部、国家安全部、人民解放軍の幹部らによる計200名余りが集まり決定された対台湾併呑作戦だ。作戦は着々と進行し、第一段階の中台経済統合から、後は最終段階の政治交渉が残されている。

馬氏が2年後の台湾総統選で当選すれば、台湾は、その平和統一が具体的なテーマとなる。しかし、ここに来て、馬氏は2012年に再選されても任期中は中国との統一問題は話し合わないと約束した。しかも馬氏の中台統一は、国民党が中国を吸収するというもので、非現実的な統一案であることは明らかだ。

台湾併合への条件は万全か

次の総統選を前に、馬氏は「中国とはあくまで経済の権益を追求するが、政治と安全保障面では一線を画す」とも明言した。中国の対台湾戦略とは、経済で甘い蜜を吸わせて台湾をまるごと頂戴するというのが狙いだ。具体的にはすでに台湾にECFA(両岸経済協力枠組み協議)で実利を与え、マスメディアの買収で完全な中国寄りの世論づくりを行っている。

馬氏は中国とは「統一せず、独立せず、戦争せず」と繰り返し、世論を納得させる現状維持路線を掲げている。そのうらで中国はじわじわと台湾併呑の核心に迫りつつある。一方、台湾内部では着々と台湾の中国化が進行しているが、台湾人の多くは台湾の危機を危機と思っていないので本当の危機が恐い。

しかし、台湾が中国に併呑されるとの危機意識が台湾国民の間に少しずつ芽生え始めた兆候もないわけではない。これは中国の台湾併呑に同調する馬政権の対中傾斜が顕著となり、言葉では現状維持を掲げ、やっていることは台湾の中国化路線だという矛盾に気づいてきたようだ。

中国が台湾と政治交渉を要請

中国がECFAで台湾農産品18品目の輸入関税を撤廃したのは、台湾併呑という巨大な見返りを求める政治的手段である。馮代表は馬総統の対中経済政策で経済が良くなったと盛んに喧伝しているが、後で中国に併呑されるという大きなツケがくれば本末転倒だ。中国の台湾への世論づくり、心理的圧力、情報戦は今後ますます激しくなろう。

中国の温家宝首相はECFAで経済的利益を台湾にもたらした半面、「一つの中国を前提として、どんな問題も話し合うことができる」と発言した。馬政権は李登輝時代の強硬な対中姿勢から一転して「一つの中国」を原則とする親中路線に方向転換し、その行方は台湾の中国化だ。さて次期総統選の前哨戦とも言える11月27日の5大市長選は台湾人の未来を選択する試金石である。

台湾陥落に追いつめられているのは台湾人が選挙によって国民党の馬総統を選択したからだ。この2年間に行われる選挙で民進党の躍進如何が台湾の命運を決するが、これは台湾人の判断と決断如何にある。

ECFAが台湾併合の条件か

中国はここに来て執拗に台湾に政治交渉を求めているが、2012年までに台湾を陥落する最終期限が迫っている。胡錦濤主席にとって台湾陥落は最後の仕上げだ。とはいえ台湾を武力で陥落することはできず、台湾に経済的な利益を与えたから実現できるわけでもない。一方見方を変えれば中国指導者の本音は、台湾併呑は国民向けのジェスチャーであり、本音は「現状維持」との見方は日米と同じだ。中国が最も警戒するのは「台湾の独立」だ。

まさしく2012年は、中国による台湾陥落か、馬氏が再選されるかの問題が焦点になろう。中国政府は最近動きの鈍い馬氏に対して不満を持ち始めていると言うが、在任中は中国と政治交渉はしないという馬氏の心境を推し量っている。既に述べた通り「一つの中国」原則は、国民党と中国共産党が合意を目指す中台合作に他ならない。

台湾人の不安心理に迫る確かな危機

中国が武力や経済的な利益で台湾を併合することは不可能だ。これまで中国は不可能に近い要求を声高に叫び、横暴な態度を振る舞ってきたが、台湾人らは暗黙の了解で許してきた。これは心の片隅に中国の脅しに妥協というあきらめに近い心理状態を作り出している。

胡錦濤主席は上海万博を利用して台湾の連戦氏や呉伯雄氏、宋楚瑜氏ら台湾政界の大物と相次いで会談している。中国の専門筋によると、「馬英九氏は国民党の伝統を引き継ぐ国民党主導による『一つの中国』だ」との発言もあるが、これは台湾人を油断させる手段の一つと考えてよい。今や台湾は中国に外堀を埋められ、内部は中国化が加速する。後は選挙結果、選挙次第を待つしかない。

いずれにしても、台湾は大きな変貌の時を迎えている。馮氏は歴代の駐日代表とは異なり、言葉は親日、行動は反日姿勢を露わにした。台湾の中国化を既成事実化する事例を積み重ねることで台湾人意識の変化を待つ動きだ。しかし、台湾人らはなんとなくいままでとは違う雰囲気に危機感はあるが、大方は深刻に捉えていない。これらの現実に自称台湾専門家とされる人に意見を求めても危機意識は見られない。台湾の中国化は最終ラウンドに入っているのだ。わが国と台湾は自由と民主主義を価値観としてきたが、中国は恐るべき共産主義国家である。表向きの微笑外交とはうらはらに鋭い刃物がわれわれに向けられているのだ。

次回は11月25日(木)です。