山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     中国の内部事情

2010年10月14日

9月22日、ニューヨークで開かれた国連総会で中国・温家宝首相が、尖閣諸島問題で「国家主権、領土で妥協しない」と言い、今後この問題に「屈服も妥協もしない」と表明した。中国は尖閣が中国固有の領土であることを前提にわが国や世界に何度もアピールを行い、政治的な話し合いに持ち込もうとしている。

 今回の漁船衝突事件はわが国の巡視船に体当たりした中国人船長が漁師ではなく、解放軍兵士であることが明白となっている。そう言われれば“船長”の青白い肌色と帰国後出迎えた家族の服装は明らかに漁師一家の雰囲気ではなかった。今回の事件は中国政府の方針による対日政策の一つだ。

 事件発生以来、わが国政府は「国内法に基づいて粛々と手続きを進めたい」としたが、まだ舌の根も乾かぬうちに船長の釈放を発表した。仙谷官房長官は検察の判断を尊重したと言い逃れしたがトラブル回避の事なかれ主義だ。今回は日本政府の対応を見て中国側が日本に「圧力をかければ必ず屈する」との確信をますます深めたに違いない。

中国民間突入部隊の末路

 しかし、中国国内では尖閣を巡る過激な分子が存在し、彼らは政府の方針とは別の動きを始めている。これに対して中国政府は心中、懸念を抱き始めた。というのは彼らに勝手な動きをされては困るのだ。香港の報道によれば、尖閣(中国名・釣魚島)の領有権を主張する民間保釣団体のメンバー四人が福建省のアモイから尖閣に向けて出港したのである。

 彼らの行動はネットや一部報道で圧倒的な支持を受けていた。しかし彼らは尖閣周辺で、わが国の海上保安庁の巡視船に追い散らされて尖閣上陸の

 目的は達せられていない。しかし彼らは帰港に際して英雄として歓迎されるものと期待していた。

 しかし、予想に反して福建省当局が彼らを逮捕・拘留。香港紙によれば、「彼らの勝手な行動が福建省州政府に多大な迷惑をかけた」とされ、殴る蹴るの暴行を受け、そのまま拘留された。中国政府の尖閣問題は国益をかけた重要案件であり、民間人の勝手な振る舞いは許されない。

邪魔者は消せ

 2007年11月4日、人民日報のネット討論会でのことである。保釣運動指導者の一人で「アモイの班長」と呼ばれ影響力のある李義強氏が「保釣運動に勝敗はなく、我々は領土問題を解決するための補助者だ」と発言。ネット上では李氏の意見に賛同する向きも多かったが、中国当局は「多くのネット視聴者が支持していると思っていようが、それは単なる勘違いだ」と牽制し、氏を別の理由で逮捕した。

 当局は、国内の尖閣運動に対して異常なほど神経をとがらせている。これまで人民の大規模な反政府暴動を避けるため、尖閣を中国固有の領土と言い、反日工作を行うなど人民のナショナリズムを煽ってきたが、振り上げたこぶしの下ろし所が見つからない。このまま対応を誤ると経済関係や外交的な失政を招きかねず、頭が痛いというのが本音だ。当局は李氏の過激な行動に身柄を拘束したが、今だに行方不明になっている。

 これまで日中親善、日中友好という実体のない心地よい言葉が先行して来たが、今回の中国船長の行動で、それは単なる空想にすぎないことを思い知らされた。中国政府の本音は尖閣問題の領有権を主張して30有余年が経過しているが、これらの扱い方次第では日中間の平和的な関係から、国益を損じる事態も考えられよう。民間人が勝手に動いて政府方針を逸脱すれば一党独裁政権の中国にとって許し難き行為となる。政府にとって民間人の暴走は死活問題なのだ。

 このように、中国の尖閣、沖縄問題は国家的な課題であり、外交カードに他ならない。尖閣問題は1970年代、日中両国が領土紛争の火種にしないとした鄧小平時代からの懸案事項であった。その後、日本政府は日中が政治的に話し合う中国案に否定的な態度を取り、全くの無視を決め込んでいる。

パフォーマンスばかりが目立つ温家宝首相

 温家宝首相がニューヨークで尖閣問題を中国領土であると執拗に強調したのはなぜか。わが国の菅首相とのニアミス会談などオーバーな演出が多いと筆者らは感じていた。筆者に送られてくる中国側の資料・情報によると温家宝氏は2010年に入って中央政治局の生活会議や国務院の国際会議で批判や非難の集中攻撃を受けている。

 温家宝氏は国務院総理として8年目に入っているが、二期目に入ってから2000通余の不満や反対意見の投書が中央政治局や国務院に寄せられた。温家宝氏は国務院の権力を一手に握っているが、深刻な中国の現状に対する難題が山積、就任以来手つかずになっている。

 最近の温家宝氏は派手なパフォーマンスと立ち居振る舞いが賑賑しい。いち早く被災地に駆けつけては緊急救助の指揮を執り、辺鄙な農村で鉱山の坑夫たちと大晦日の夜を過ごし、エイズ患者に温かい言葉をかけるなど人民受けの演技に余念がない。しかし、それよりも中国が直面する深刻な精神患者と環境問題に急いで取り組むべきではないかとの声が噴出している。

恐るべき精神病患者の多発

 温家宝氏が最も心を痛める問題は全国に5000万人を超えるといわれる精神病患者の問題だ。そのうち2000万人余が重症患者である。精神病患者の85%は医者の治療を受けることができず、2000年以降患者数は毎年400万人の割合で増えるなど、自殺者も25万人以上に達している。

 さらに恐るべきは中国全土に5000万人を超える性病患者がおり、うちエイズは3000万人、梅毒患者が1200万人を占めるとの統計もある。中国の性病患者は毎年800万人以上増加しており、今後中国観光客の来日増大でわが国の風俗業関係者などへの影響が懸念されている。

 温家宝氏は「精神病や性病患者の増加は、政局の安定、社会の調和、社会の精神文化、中華民族の振興にとって新たな危機、危険因子、際立った矛盾を招く」との懸念を示している。温家宝氏の政治スター気取りやパフォーマンスだけでは、もはや限界に来ているほど国内の各界各層から非難を受けている。このような国内事情で温家宝氏はピンチに立たされていた。

解明されつつある歴史観

 今年は南京大虐殺事件以来70周年を迎えている。さすがに台湾では高校歴史教科書からその記載が削除され、最近では洗脳された中国人の中にも疑問に思う人が増えている。中国的歴史観はこれらの真実が世界的に公開されていく過程で自然消滅せざるを得まい。

 最近ビジネスで来日し、勤務する中国人が増えるにつれ、その洗脳が少しずつ溶解されつつある。例えば日本の不動産会社に勤務する女性が「台湾は中国の領土です」と言った。私は「台湾の人たちはそんなことは誰も考えていません。中国が勝手に言っているだけです」と言ったら、中国人女性はキョトンとしていた。

 日本の大学に通う中国人の陳さんは来日前、両親から「日本人は残虐な民族だから気を付けなさい」と言われて来たが、いまでは日本人の親切心や礼儀正しさを高く評価している。特に靖国神社には驚いたと言い、「中国では八宝山(中国の慰霊場)がありますが、軍の幹部しか祀られていません。靖国は上から下までみんな同じ扱いです」

世界は富力から武力の時代に

 尖閣を巡る日中間の争いは今後わが国の存続に係わる重大事と言えよう。既に中国筋の情報によると、中国は尖閣を中国領土と宣言したのであらゆる手段を用いて手加減はしないと強硬だ。今後、尖閣周辺海域に執拗な巡回を行うであろう。日本側の出方次第では解放軍の軍事介入が視野に入る。

 このように中国は30余年前から尖閣を自国領土とするため着々と準備を重ねてきた。これらを正当化するため、中国の西側に対する宣伝姿勢は活発だ。しかし残念ながら尖閣を中国領土とするにはかけ声ばかりで事実と根拠がない。実際解放軍が尖閣諸島に攻め込んでくれば、いくら見て見ぬふりを決め込んで来たわが国政府や国民もこれでは覚醒せざるを得まい。

 世界は数百年の周期で変化と循環が起こり、いまその巨大な変革の真っ只中にある。世界の文化文明は「武力」「知力」「富力」の3つの力の循環によって新陳代謝を促してきた。いまや世界は資本主義の崩壊によって「富力」の時代から戦争の発生や危険性による「武力」の時代に移ろうとしている。自衛隊は軍隊ではない、と言うわが国の非武装中立論、平和主義者らの左翼思想ではもはや自国の安全と国民の財産を守れないと多くの国民が気付き始めて来たのではなかろうか。
 
次回は10月21日(木)です。