山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     「日韓併合100年」で暴走する仕掛人

2010年08月26日

7月21日、民主党の議員ら数名が韓国ソウルの青瓦台(大統領府)を訪れた。日本の菅直人首相談話に関する意見交換のためである。慰安婦問題で改めて謝罪を行い、韓国側の民間団体に金銭的な支給を行いたいという打診があったと聞く。そこには外務省の事務レベルが同席する場はなかった。菅政権の一部議員らは知識や外交経験に乏しいと見られているが、政治主導を錦の御旗とする強引な外交交渉に与党内からも懸念の声があがっている。

 昭和40年に調印された日韓基本条約で個人補償請求権の消滅は両国間で既に解決済みであった。にもかかわらず、一部議員らは「法的には解決したものであっても韓国人の痛みに配慮し、誠意を見せるべきだ。」と言い、それには元慰安婦に対して首相自らが謝罪を表明するのは当然としている。しかし、岡田外相が25日、さすがにたまりかねたのか、これまで日韓併合条約の有効性についての言及を避けてきたが、市内の講演で「併合条約は合法的に解決された」と認めた。

 これら歴史問題の仕掛け人は仙谷由人官房長官だと見られている。仙谷氏は首相の談話内容を検討し、謝罪と賠償を立案し、民主党内の反発を抑え込むなど一人三役をこなした。さらに仙谷氏は首相談話の閣議決定を画策するなど、静まりかけた日韓関係に再び火を点けようとしているとの声も出ている。これでは折角良好な関係に水を差すようなもので逆効果だとの意見が散見されつつある。

個人補償にこだわる仙谷氏

 これらの首相談話に対して、与野党間で反対意見が多い。首相談話が、これまでよりさらに踏み込んだ歴史的見解を内外に示せば国益の損失につながることは明白だ。もう既に、韓国や中国からもこれではまだまだ生ぬるいとの声もあり、わが国の譲歩にはキリがない。筆者の知る外務省幹部は重たい口を開き、「仙谷氏は信用できない」と不快感を滲ませた。

 外務省は首相談話には反対であり、今さら謝罪や補償を行うことは日韓両国の収まりかけた歴史認識を再燃させるとの見解である。外務省は仙谷氏に謝罪と賠償は止めるべきだと充分説明していたので当然受け入れられたと思っていた。しかし、菅首相の談話は、「韓国の人々は、その意に反した植民地支配によって国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷つけられた」とわが国の植民地政策を一方的に断罪した。これは村山談話より一歩踏み込んだ謝罪となり、わが国の国益を著しく損なう行為をあえて行うことに他ならない。

マッチポンプの個人賠償利権

 民主党議員らは、菅直人首相は仙谷氏に取り込まれた傀儡政権と見ている。仙谷氏は「日韓併合100年」を機に、慰安婦問題で謝罪し、新たな金銭支給にこだわる執念を見せ始めた。そのこだわりの背景には、フィリピンや韓国など、アジア各国で慰安婦問題に火を点けて回っている高木健一弁護士と仙谷氏との密接な関係がある、と産経新聞記者の阿比留瑠比氏は指摘している。

 阿比留氏は仙谷氏が高木弁護士と共著で「香港軍票と戦後補償」(明石書店)を発刊しており、韓国の慰安婦補償請求訴訟などで個人補償に強く関わっている。これらの問題には何らかの利権が付いて回るものと言われてきた。そうでなければこれほど執拗にこだわる問題ではない。仙谷・高木コンビによる最終目標は国が元慰安婦に対して謝罪と金銭支給を行う「戦時性的強制被害者問題」の解決促進法案の可決にあると見られている。

外交・経済軽視、イデオロギー政治復活に執念
 
 菅政権の事実上の黒幕とされる仙谷氏は、東大在学中全共闘で活動し、その後社会党時代には安保反対、歴史認識などで反日運動家として活躍した。民主党に入ってからは反小沢を旗印に頭角を現した。菅政権誕生と共に国家戦略室を立ち上げたりしたが、もともと経済と外交の経験はゼロに乏しく、全くの素人ゆえに失敗に終わっている。

 仙谷氏は外交や経済よりイデオロギー政治の復活に関心がありそうだ。民主党代表選で鳩山前首相が菅首相に挙党体制をとるよう求めたが、首相が突っぱねたのは、仙谷氏への配慮だと見られている。仙谷氏はあくまで脱小沢であり、小沢幹事長の誕生は自らの存在が消滅することを恐れてかたくなに反対し続けている。つまり、小沢氏と仙谷氏は裏方に徹する同じタイプだといえまいか。
 
国家溶解に導く日本の歴史教育

 ここで戦後の歴史を総括してみる必要があろう。日韓併合も、日韓基本条約も当時の為政者たちが合意のうえで調印したものだ。それを現代の国際情勢を基準にして、過去の歴史を全否定するのは間違いである。ましてや、日本国中に日本罪悪論というでたらめな歴史観がはびこり、我が国民は考える力や夢・誇りも失ってしまった。わが国の教育現場や学校教科書などによる悪意に満ちた歴史教育を残した後遺症が大きな傷となっている。

 わが国は自国の偉大な歴史観を自虐史観に改悪して何も知らない子供たちを教育してきた。これは日本の未来を溶解しようとする意図によるものだ。さらに、そうした日本発の「歴史のねつ造」が韓国や中国に輸出され、増幅された反日史観を逆輸入している始末だ。この日本発による嘘の歴史観が世界にまで広がりを見せたのは周知のことである。

 わが国国民はこのようなデタラメな歴史観が飛び交う中で、韓国や中国から「歴史のねつ造」が逆輸入されるたびに謝罪と反省、賠償を繰り返してばかりでは堪らない。しかし今では他国に謝罪し、嵐が通り過ぎるのを待つという習慣が身に付いている。つまり、「謝罪を行えば必ず賠償が付きまとう。彼らがここまで歴史観を罪悪視するのは深いわけがある」と専門筋は言う。

「国家の品格」喪失の危機

 戦後、米国の対日弱体化政策に便乗したマルクス主義者らにとって、わが国は天国であったに違いない。今や「歴史のねつ造」を職業とする人たちが異常繁殖している。慰安婦問題が立ち消えにならないのは、これらを生活の糧とする人たちがいるからだ。慰安婦の謝罪が定期的に行われ、国が補償することになればこの問題はいつまでも消えない利権構造の巣窟になるとは専門筋の意見である。

 これら行き過ぎた「歴史のねつ造」による日本叩きにわが国民が真実を求めようとする倫理的感性すら見失いつつあるのは、わが国民の大勢が考えることすら避けてきた結果ではなかろうか。政治家は思考停止に陥り、「謝罪と反省」を繰り返すことにも不感症になっている。しかも、その都度ありもしない「歴史のねつ造」を正そうともせず、放置して来た。その結果、わが国は精神性のみならず「国家の品格」すらも失いつつある。

密室政治の始まりを予感させる菅政権

 菅民主党は参院選のマニフェストで「公開」と「透明性」を公約したが、その公約が守られる見通しはない。前述の首相談話では「検討中」「参考にする」と言葉では聞いている振りを示しながらも、その実すべての段取りはあらかじめ整っていた。仙谷氏らの行動は詭弁を弄して本音を隠すという陰湿な密室政治だ」との声が拡がりを見せている。

 国家の未来を決する重要な政策が、議論もされず密室の中で秘かに文書が作られ、談話の骨子が作られていく。仙谷氏が経歴通り、「超リベラル」な左翼思考を実行に移し始めた、と心配する議員らも多い。

 彼らの狙いは党利党略、個利個略もあるが、国家の破綻にある。それでなければ慰安婦問題でわが国民の血税を使い、日本だけが悪いという歴史観を国民に押し付けることなどできまい。民主党の代表選は仙谷直人氏と小沢一郎氏の闘いに他ならない。仙谷氏による戦後のイデオロギー政治に戻るか、小沢政治による本来の大改革が実現するかの選択に迫られている。

未来志向の日韓関係に向けて

 菅政権は外国人地方参政権、夫婦別姓、人権侵害救済機関など国家崩壊につながる危険な法案を一方的に立ち上げている。これらは国民世論に対するだまし討ちとの意味合いが強く、今後与野党を問わず「超リベラル」な行動に対する反発は免れまい。

 今回、首相談話の経緯に見る仙谷政治は氏の経歴と軌を一にして「密室政治」の始まりを予感させている。仙谷氏らによる慰安婦問題は日本国の溶解が目的と見られているが、党内から仙谷氏の言動と行動に批判が出ないのはおかしい。わが国の消滅を目的とする政治姿勢に同僚議員らに気付きがないのは考えようとする気力の喪失にある。しかしながら、民主党内には良識ある政治家の存在と彼らの健闘を祈りたい。

 日韓文化比較で著名な韓国の金容雲漢陽大学名誉教授(82)は、日韓併合100年について「過去の侵略に対する韓国人の恨みつらみを吐き出す時期はもう終わった」と述べている。筆者は韓国の親しい友人知人に聞いたが、みなさんは「慰安婦はもういいですよ」と語っていた。さらに李明博大統領は日韓関係について「未来志向的な関係がよい」と述べている。わが国は、戦後、米国による国家弱体化政策で刷り込まれた自虐史観から抜け出したいものだ。そろそろ慰安婦を食い物にする政局はやめようではないか。

※次回は9月2日(木)です。