山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     日台は生命共同体

2010年08月05日

これまで台湾国民は親日的、知日的とされてきたが、国民党政権になって台湾全体が中国に傾斜し始めたことで、日本と台湾を取り巻く国際環境は激変しつつある。中国の急激な軍拡と経済発展により、日台両国は「安全保障と経済」の行方に見直しが迫られていよう。

 台湾は、日米両国と同じ「自由と民主主義」という共通の価値観を持ち、人口2300万人超でありながら外貨準備高、情報製品の生産高は世界第三位という経済大国である。中国の「台湾統一」が進められている中で、独立国であるわが国政府は台湾とは国交がないとして、冷淡な態度を示してきた。しかし、いかに台湾が孤立し、日本との公的な外交ルートが存在しないという多大な障害があろうとも、台湾の重要性が低下することはない。

台湾の民主化を目の敵にする中国

 台湾の李登輝元総統が総統就任中の12年間(1988~2000年)に成し遂げた台湾の「民主化」「本土化」は、全中華民族始まって以来の快挙であった。中国の民衆は本音では台湾の民主化を中華民族の理想郷と考えているので、今後台湾を巡る葛藤の中で大きな火種となろう。

 しかし、中国共産党胡錦濤政権にとって台湾の民主主義は目の上のたんこぶである。台湾の民主主義は中国人民の抑圧から民主解放に連動するものだ。その台湾が、いま中国の緻密な計画のもとに浸蝕されつつあるのは極めて深刻な事態といってよい。中国の台湾攻略は経済、文化、人的交流に至るまで平和的手段による吸収統一が目的であり、着々と実行に移されている。

2012年台湾陥落

 中国は2012年に行われる「党第18回全国代表大会」までに台湾を吸収統一することを党として決定している。中国による台湾統一を容易にするにはまず台湾のマスコミを手なずけることだった。中国は国民党政権の大幹部をはじめ、学者、知識人、文化人らに対しても買収と利益誘導を行い、中国政府と一蓮托生の色に染めあげた。いまや、自由時報を除く台湾メディアの大勢は中国寄りに情報操作されている。特に国民党幹部らは中国で莫大な利益を受け、自らの利益のために台湾を売り渡そうとする様相が露呈されている。

 さらに、中国の国家安全省と外交部は、台湾独立の砦である民進党にダメージを与え消滅させる一環として陳水扁台湾前総統の汚職を暴きだした。中国の工作員たちは陳氏の口座を持つスイス銀行とシンガポール銀行に、同氏汚職の証拠を開示するよう説得した。中国現政権にとって台湾問題は中国共産党の存続に関する重要案件である。いまや、中国の台湾工作は武力を用いず、「平和的手段」で台湾を吸収できると確信していよう。

台湾統一を目論む非理性的な中国政治

 トウ小平氏の遺言には、「台湾問題は胡錦濤同志が二期の任期中に解決されなければならない。2012年を超えてはならない」とある。しかし、台湾は既に「民主化」「本土化」を実現した国家である。台湾に対し非理性的な強硬手段で統一するには平和的手段による「融和政策」か、武力行使しかない。各誌の論評によると中国軍部は武力による台湾侵略を強行すると報じられているが、単なる誇大されたパフォーマンスに過ぎず、非現実的である。

 中国は自由社会では想像できない非理性的な国である。台湾人の意志、感情、利益を度外視して台湾の未来を中国が決めるというのは中国の暴挙にほかならない。中国は法を無視し、威嚇、威圧を常套手段として台湾統一を強引に推し進めようとしている。法律とは国家国民の意志と利益の拠りどころとするものだ。

 中国は非理性的国家として世界の不信を買っているが、経済力というアメと軍事力というムチで辛うじて世界の不満を抑えているに過ぎない。まもなく中国の政治、経済の側面で予期せぬ不安定要因が続出すれば一気に中国叩きもある。これまで中国共産党政権の反日政策は国民の不満をやわらげる手段であった、台湾問題はそれ以上に中国のナショナリズムを高揚する有効な手段であった。

中国の軍拡に日台も警戒感

 日台両国の安全を保持するには、対中国と軍事的な均衡が肝要である。台湾を守るには、台湾の軍事力増強と米軍との軍事提携がより一層強化されるか否かであろう。米国は1月29日台湾へ64億ドル(約5800億円)相当の武器を売却すると発表した。米国は台湾海峡の安全と安定の維持に貢献するとの姿勢を崩していない。これに中国は猛反発し、台湾への武器売却停止を米国側に求めている。

 一方、防衛省は海上自衛隊の潜水艦を増強する方針だ。これは東シナ海、西太平洋で中国海軍が活発化しているのに対抗して抑止力と情報収集能力を強化するのが狙いだ。併せて、防衛省は中国の航空戦力の増強に対抗してF-2戦闘機を追加調達した。F-2は日米共同開発の高性能航空機で、三菱重工が生産部門の60%を担当している。敵の戦闘機を迎え撃つF-15より防空能力はやや落ちるとされるが、データ通信システムの対処力などが日本側の技術によって一段と向上しよう。F-2は現在空母建造を急ぐ中国海軍を壊滅させる威力を持つ国産戦闘機だ。

日台経済は中小企業の発展が鍵

 日台関係の緊急課題は「安全保障と経済提携」を深化することだ。先述のとおり、日台の安全保障問題は米軍が鍵を握っている側面はあるが、日台も着々と中国の軍事増強に対応しつつあるといえよう。台湾経済は活況を呈しているが、中国次第で先行きは暗いとの専門筋の指摘も出始めた。李登輝氏は、弊会一行が淡水の研究所を訪問した際の講演で、「台湾は①グローバリゼーションを適切に規制せよ②過度の中国依存やエネルギー依存を改め、内需産業育成やエネルギー再生などで経済の自立性を高めるべきだ」と強調した。

 さらに言えば李登輝氏は台湾経済が過度な「中国経済の依存から内需産業の発展とか中小企業のイノベーション(革新)による事業転換が緊急課題だと強調した。つまり、台湾の経済活性化、景気の浮揚にはこうした中小企業の事業転換や革新には国が資本を出し活性化させるべきだと提言している。

 今後、日台の中小企業は連携して東アジア進出に向けた新しいビジネスモデルを構築すべきなのは、これからアジア諸国が巨大市場になるからである。その中で中小企業が企業活動を行えるビジネス環境を政治主導で整備すべきではなかろうか。

求められる若い日台政治経済人の対話

 現在、日台の超党派政治家がリーダーシップをとって日台間の絆を強め、アジアの平和と安全に寄与したいとの思いから民間と共同して「日台協力委員会」発足の準備が進められている。日台が直面する「安全保障と経済」という国家の命運を決する重要問題を日台の政治家が超党派で台湾側と論議しようというものだ。

 それには、日台の政治家と経済人が定期的に勉強会と交流会を開催し、当面の諸問題を議論していく習慣の場を持つことが望ましい。報道関係にも働きかけ、世論に訴えていけば必ず新しい時代が動き出すはずだ。各界各層の方々にも呼びかけ、力強い活動が望まれる。李登輝氏の理念や哲学、わが国に対する強い想いを盛り込みながら、運営の基軸にしたいとの思いが伺われた。

 これまでわが国と台湾の間には多くの友好団体が存在している。諸団体はその時代の中でそれぞれの役割を果たし、日台友好に貢献してきたといえよう。その中にあって、「日台協力委員会」の発足は、李登輝氏の志と理念を日台両国の有志が理解し次世代に継承する役割を担う存在だ。

日台は生命共同体

 台湾は日本の植民地時代を経験し、日本の教育を受けた『日本語世代』が年々減少傾向にある。いまも若者の間では日本語熱は高く、親日感情は根強いが、若い台湾人は日本語世代の教育を受けていない。彼らは中国の顔色ばかりを窺う日本外交を冷めた眼で見ている。

 現在、日本の若者は誇りと自信を失っている。これはわが国のリーダーシップのなさや、過去を否定する政治や教育に原因があった。若者に歴史を教えず否定する国というのは世界にも例がない。これまでわが国は戦前、戦後を通じてアジア諸国にインフラなど、国の基礎となる資金や技術を投入している。わが国は戦前と同じく、今日に到るも資金や技術、ノウハウをアジア諸国に投入するなど近代化に貢献した。

 李登輝氏は次のように述べている。「日本と台湾は生命共同体なのです。即ち台湾なくして日本はありえない、と同様に台湾も日本なくして存在しえないことをじっくり考えていただきたいのです」。これは、日台の「安全保障と経済」の一体化、さらなる強力な関係を願う思いではなかろうか。わが国は、東ガス田、竹島、尖閣列島、歴史問題など事なかれ主義の先送り外交を行ってきたことで、次世代に多くのツケを残している。今後、日台関係を発展させることで、わが国が自信と誇りを取り戻すことが先決である。そのうえで台湾を勇気づけるような行動と情報発信があれば元気な東アジアに生まれ変わると思いたい。

※来週8月12日の「木曜コラム」はお休みとさせていただきます。
 次回は8月19日(木)です。