山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     成長なき日本経済の課題

2010年07月15日

 わが国経済の大黒柱である製造業が揺らいでいることを述べてきた。一方、中国は国を挙げての内需拡大、国内産業育成が功を奏し、同国製造業は着実に成長を遂げ、量の面では既にわが国製造業を追い抜いている。中国は家電製品や自動車、新幹線、粗鋼生産量、部品、素材など日本の製造業が得意とする分野の領域にまで踏み込んだ。日本工作機械工業会の調査によると、2009年の工作機械の生産額で28年間守って来た世界一の座を中国に譲り渡した。わが国はドイツにまで追い抜かれて第三位に転落した。

日本の製造業各社はこれまで製品の高度化、高精度で強気の構えを崩さなかった。中国メーカーはわが国から伝授した技術やノウハウを身に付け、いまや本格的に自力生産を始めている。すでに電機製品の分野では韓国のサムスングループと低コストで大量に生産できる中国がわが国メーカーと奮戦中だ。

販売戦略の転換を

わが国製造業は経済の大黒柱であり、中小企業やサービス産業はその恩恵にあずかってきた。これまで米国に代わり、中国を輸出先として景気存続の大きな役割を果たして来たが、いまや中国はものづくりのあらゆる分野に参入し、日本の地位を脅かしている。

名古屋でネジを製造するメーカーのS社長は「中国はどんどん日本の技術を吸収して同じものを作るようになった」と言っている。それゆえ、中国メーカーに真似されないよう、日本に回帰して新技術の部品開発に懸命だ。しかし、作ってもすぐ真似されるのでいたちごっこのような状態が続いて来た。

わが国メーカーは自動車、電機製品に代わる航空機産業や軍需産業、微細加工製品、複合加工機分野などが残されている。しかし、どんな分野でもすぐ中国は同じものを作り追いかけてくるのでメーカーは生きた心地がしない。いっそのこと中国より新興国市場に集中して量より質、地域密着型の安い商品づくりを伸ばしていくのはどうであろうか。

経済回復には新産業創出と構造転換が不可避である。1980年代、米国の製造業はわが国から輸入することで衰退し始め、国際競争力を失った。今わが国の製造業もかつての米国と同様の道を辿ろうとしている。本来であれば次世代に向けて製造業に代わる新産業の創出と構造転換を果たすべきであった。

わが国の自動車産業もいまやピークを過ぎ、政府の補助金に支えられ、辛うじて利益を確保し、無理矢理新規需要を創出しているに過ぎない。かつて米国の自動車産業が政治的に延命され、結果的に赤字を積み重ね、機能不全に陥ったように。

JAL(日航)も同様だ。本来なら細かく分散して解体と存続を調整すべきであったが、単なる延命策でしかなく赤字を積み重ねるだけである。JALの救援策はかつての成長時代からの延長線上にあるもので、今日の需要減退時代では赤字を支える成長が見込めず大赤字のタレ流しが続く。古い体質を表面上塗り替えても米国の自動車産業と同じ末路を辿るだけだ。

法人税改革で企業を活性化させよ

わが国は財政赤字を補填する為、高い利益を上げている企業に高い法人税率を課している。わが国は企業の法人税が世界一高いといわれている。相当な利益を挙げている企業でさえ、これでは何も残らない。最近弊会企業会での話によると、法人税の安い香港やシンガポールに本社を移すしかないと言い、実際シンガポールに本社を置く企業が増えている。

企業がグローバル化する中、法人税が高ければ企業が海外に拠点を移すのは自然な流れだ。日本企業も元気な企業は競って法人税の安い海外に本社を移そうと考えている。わが国では金の卵を生む企業に増税で海外追放とは本当にバカのやることだ。

どういうわけか、わが国政府の責任ある立場から中小企業を活性化すれば需要と消費が拡大し、雇用や税収が増大するとの意見がまるで聞こえてこない。小渕内閣時代に中小企業への保証枠を増やし、経済活性化を促した事例もある。今からでも遅くはない。大幅な法人税改革と融資で中小企業を活性化させるべきだ。子供手当ては選挙目的で中小企業融資枠拡大は税収増になる。

安易な海外進出に警鐘

デフレ不況が長引き、なかなか好転しない国内市場に見切りをつけた企業が海外にビジネス進出の機会をうかがっている。元気がない日本市場を見限って海外にビジネス拠点をつくりたいからだ。中でも需要の急増が期待できる中国市場には熱いまなざしが注がれている。

日本政策金融公庫では「海外展開資金」という融資制度があり、最近申込者が急増していると聞く。わが国飲食業の70%以上は赤字とされているが、赤字の飲食業も中国市場では人気ビジネスになる。日本から進出するスーパーやラーメン店は中国人に受け入れられよう。

高い経済成長を続ける中国市場は一人あたりの購買力が飛躍的に高まっている。しかし、日本市場で採算割れした負け組の小売り業者や飲食業者らが中国市場を安易に選択するのに疑問もあろう。だからと言って、国内市場は成長がなく、客はこの先細るばかりだ。

観光立国で日本復活を目指す

21世紀の日本復活に向けた国家戦略プロジェクトのひとつに、「訪日外国人3000万人プログラム」がある。観光を国の重要政策と位置付け、2020年始めまで訪日外国人2500万人、将来的には3000万人の達成に向けた取り組みを進めるものだ。観光庁では、「2020年はじめまでに訪日外国人2500万人達成により経済波及効果10兆円、新規雇用56万人が見込まれる」と試算している。

その一環として日本政府は今年7月1日から、中国人訪日観光の査証取得要件を緩和、申請受付公館の拡大など、査証の取得、容易化を実施した。同時に医療など成長分野と連携した観光の促進、通訳案内士以外にも有償ガイドを認めるなど受け入れ態勢の充実等に取り組むという。

中国以外にもベトナム、インドネシア、カンボジアをはじめ東アジア諸国がわが国の進出を待っている。わが国の技術、ビジネスモデルは東アジアの人の憧れの的だ。日本人にやる気と資金を与えれば東アジア経済が成長する。

規制改革と人材育成が鍵

かつてのローマ帝国が滅亡した原因は、①愛国心②伝統(国旗・国家)③道徳・精神の否定であった。彼らには自らの国家を存続させるという意識が希薄であった。国家が存続するには経済発展と安全保障を対にして考えねばならない。ローマは国防を軽視し、知力を国民の要求する「生活第一」に注ぎ込んだ。

わが国新産業の創出を実現できるか否かは市場が決めることだ。これまで各省庁にまたがる様々な規制が需要を喚起する妨げとなっていた。政治は民の意向を汲み、政治主導による規制改革が欠かせない。新成長戦略には国の財政確保と国民税負担の軽減こそ避けて通れない選択だ。

さらに、東アジアを中心とする新興国に対してわが国がリーダーシップを取るには優秀な人材の育成が不可欠だ。日教組教育で子供に間違った歴史観を教え、ゆとり教育で学力低下をもたらした失敗を繰り返さないためには愛国心を養い、日本人として自信と誇りを取り戻すことだ。

消費税10%で二番底

成長戦略が明確でないと、経済の活性化には程遠く企業はこの先どう生き残れるかじり貧が止まらない。経済成長には国家が企業に未来像を示し、新産業を創出する道しるべを示すことが先決だ。企業が元気になれば雇用を生み、消費が増大し、税収が増えるのは失速の通りだ。子供手当に見るばらまきは経済効果はゼロと言ってよい。

しかも菅首相は就任早々、消費税率を10%にすると明言。国民としては政府が税収不足であることは承知しているが、10%に引き上げれば、中小企業にとっては致命的な衝撃だ。実際企業を経営している人にとってさらなる負担と利益の減少は避けられず、企業規模を縮小させるしかない。政府や霞が関の考える財政赤字をまかなえば大不況になるところだ。今後は二番底が心配だ。

民主党は脱官僚を掲げて16兆円以上を節約すると国民に公約した。国家公務員を含む人件費の20%の削減や天下り根絶で税収を捻出するとしたが、実際には何も手を付けていない。民主党は公約を実現できないのと税務省の増税案に乗って消費税10%構想をぶち上げたとみられている。政治家らは今頃になって民意はわからないというが消費税10%は中小企業をぶっ壊す爆弾に他ならない。

次回は7月22日(木)