山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     揺らぐ日本経済の大黒柱

2010年07月01日

昨年2009年の財務省統計によると、自動車と電機産業は前年同期比約30%減の赤字を計上。トヨタ自動車は創業以来初の4610億円の赤字となり、この年だけで自動車業界は約5兆円以上の利益が減少した。また、総合電機5社も約1兆5276億円の赤字を計上した。

わが国は外需依存型経済構造であり、製造業が日本経済の生命線であるだけに、2009年期決算の赤字がいかに衝撃的な事態であるか理解できよう。つまり、これまで一度も赤字になることのなかった世界のトヨタが初めて赤字に転落したことは将来を暗示する深刻な事態だ。

薄氷の黒字決算

しかしトヨタ自動車は今期2010年の3月期決算で2期ぶりに1兆円規模の黒字に転換した。トヨタは逆風の中でさらなる構造改革の必要に迫られていた。これまでわが国製造業は円安という神に助けられ恵みを授かってきたが、円高に転ずれば悪魔になる。わが国政府は中国の工業化に対抗して低金利政策で製造業を優遇し、雇用調整助成金で企業の休業手当や自動車買い換えのため、補助金措置などで国ぐるみの助成を行った。

2010年の自動車全体の利益はこうした国ぐるみの補助金に支えられた面もある。言い換えれば、政府の補助措置がなければ自動車業界のみならず他の製造業も立ち直れない状況下にあった。わが国の自動車・電機業界は構造改革、自助努力でコストを削減し、収益を改善されているが、製造業は国が杖を貸さないと歩けない状態だ。

政府支援に頼る製造業

2009年、製造業の経常利益の黒字は約3兆5500億円と記憶している。が、そのうち国の買い換え産業支援金は2兆円であった。補助金がここまで多額に製造業に注ぎ込まれているのは驚きだ。つまりわが国製造業の大量生産・大量販売路線は中国・韓国に追い抜かれつつある。残された道は新製品の開発か新分野の開拓しかない。

米国の自動車産業も、政府支援で支えられて来た。GMやクライスラーにみる破綻劇は、今後わが国製造業が直面する教訓である。彼らは技術開発を怠り、政治力に頼ってきた。わが国の自動車産業は自動車購入支援策で需要を前倒ししているが、やがて壁に突き当たらざるを得ない。まもなく国内需要が一気に落ち込む事態を想定して、これらの対策を怠ってはならない。

わが国の自動車や家電はものづくりの大黒柱であり、日本経済を潤す源流であった。しかし製造業の停滞で、今後、製造業そのものの見直しが急務となり、構造転換や、新製品の創出が急がれている。わが国産業は他国にはない製品の優しさと技術力に加えて、文化精神性を持つ品格のある製品づくりが次なる課題となろう。

生産拠点の海外移転

日本経済の先行きについて、このままの楽観論や期待感で輸出主導経済を安易に継承すれば、わが国が衰退するのは必至だ。現今米国に代わり、中国貿易に助けられているが、中国への輸出もやがて鈍化せざるを得まい。一方、製造業の国内需要も自動車購入支援策で底上げされているに過ぎず、極めて危うい土台に立っている。

中長期的に見ると、日本経済の製造業は成長から停滞という深刻な事態に直面している。つまり、過剰設備などの事業構造が足かせになっていよう。これまでわが国は製造業を大黒柱として日本経済全体にお金の恵みを浴びてきた。これがわが国経済が歩んできた経済構造であるが、限界に来たようだ。

昨今、製造業は米国がだめなら中国があり、中国がだめなら新興国があると期待を抱いてきた。しかし新興国は所得が低く、求められる低価格製品に対応するには労働力の安い海外での生産が不可避である。わが国をはじめ外資は中国に資金や技術を提供して経済を発展させ、中国で多くの新興富裕層を作り出してきた。今後はまずそうした新興富裕層に対する需要創出が新しいターゲットだ。

製造業は経済のお荷物か

わが国が経済不振から脱出できない最大の理由は、一部の製造業が社会の荷物になろうとする側面だ。わが国製造業の状態を深く煎じ詰めると需要減退の中で過剰生産と過剰設備、過剰労働力の負担が重くのしかかってくる。

わが国製造業がこれまでのような利益率を計上できるのは期待薄である。中小下請企業にこれ以上のコストダウンを押しつけるのは限界だ。トヨタ自動車からの税収で潤ってきた愛知県中部地区も関連企業も死に体で、街全体が税収不足で活気が失われている。わが国の周辺諸国は元気だというが、日本経済が不況から脱皮できないのは下請け中小企業に利益が残らない大企業のコストいじめだとの批判が強く、日本経済のお荷物になりつつある。

世界が経済危機から脱出していく中で、わが国も大黒柱である製造業が燃費の少ないハイブリッド車を開発するなど新しい需要の創出に懸命だ。

次は回復日本だ

このような日本経済が停滞している最大の要因は、わが国中小企業の大勢が今だに輸出による需要拡大に依存している。世界的経済システムの中で、株主の顔色ばかりを伺い、いまだに高度成長時代のビジネスモデルから脱却できず、売上や利益追求のみに目が奪われている。もっとリーダーは教養を高め、大局観を持って時代の先を読む工夫が問われるべきだ。

一方米国の経済、金融危機がなぜ回復しつつあるのか。米国はこれまでの仕組みやシステムとまったく異なる新しいメカニズムを生み出しつつあるからだ。つまり、先端的な企業やビジネスを創出するIT関連企業である。米国は中国への輸出に頼り、中国に依存するのではなく、米国にしかできないビジネスモデルを構築した。これは米国らしい新産業の創出であり、米国ならではの脱出方法と言える。

わが国経済は1990年のバブル崩壊以来、いかなる経済構造を改革してきたかと問われれば答えようがない。世界が新しい時代に向けて大変革を遂げつつあるなかで、わが国は何も成し遂げていないからだ。わが国製造業の危機の一因は、やはり国や企業のリーダーによる大局観を失った教養の衰退である。

世界規模の日本改革

この数年、わが国を取り巻く内外の環境は政官という支配層の腐敗と堕落によるものだ。彼らはあらゆる権力と権益を握り、お金を不公正に配分したため、長年にわたって国民の不満が爆発し、政権交代という鉄槌が下された。いまわが国では行政による無駄遣いと偏った政策を是正し、公正な社会循環を国民の大勢は強く望んでいる。

これまで自民党政治が培ってきた①米国主導による支配化②官僚支配による行政の無駄遣い③市場原理主義が生み出した格差社会④米軍頼りの安全保障⑤外需依存型経済ーなど国家全体の見直しが問われている。

わが国民は前回の衆院選でこれらの古いメカニズムを破壊するために民主党政権を選んだが、ここにきて、菅政権はかつての自民党時代に舞い戻ろうとする気配が見られる。

精神の時代

100余年前、世界は「武」の時代であったが、戦後は「知」の時代に変わった。「武」の時代は武力によって他国を侵略し、制圧する破壊の時代である。「知」の時代は経済至上主義により国民の生活を豊かにする経済建設の時代である。しかし、ものが行き渡り、人々が豊かになった結果、さらなる欲望が広がりを見せ、欲望の行き着く先は腐敗と堕落にうごめく奈落の底だ。

つまり、「知」の行きつく先は欲望民主主義のなれの果てであり、ものをすべての価値観として充足する世界は、最後にすることがなくなり、残るは破壊しかない。わが国はモノ・カネ中心主義から欲望をコントロールする精神と優しいものづくりで世界を変えていこう。西欧的理論は敵を倒して制圧する「武」の力が持ち味であると述べたが、わが国では勤勉と努力を重んじ、共存、共生、協力など思いやりを尊重する「社会道徳」が人間生活の基本である。

わが国が生き残る次なる時代は、精神を中心とする優しい産業創出にある。今やかつての先人たちが築いてくれた伝統と精神、企業文化による商品づくりが日本経済の柱となろう。今回はわが国経済の大黒柱である製造業の現状と未来への限界を分析・解説した。次なる時代はわが国の道徳と精神性、伝統・文化を世界に発信するビジネスモデルが急務だ。

次回は7月8日(木)