山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     日本経済の回復案

2010年06月24日

2010年3月期決算によると4社に1社が2008年の世界金融危機前と同水準の業績が回復したという。ギリシャの財政危機の余波や円高に不安がよぎるなか、中国や欧州向けの輸出が好調であった。

反面、この15年間で日本の製造業が40%近く減少し、技術者が中国や韓国企業に引き抜かれ、技術立国の座が脅かされている。さらに、これまで世界一とされてきた半導体、家電、造船が韓国や中国に追い抜かれ、苦戦中だ。トヨタがリードしてきた自動車王国の座も韓国の現代自動車らがトップの座を狙っている。

日本経済は輸出次第

わが国は輸出頼みの外需型産業構造だ。それゆえ経済の行方は貿易相手国次第であり、常に相手国の景気動向を注視する必要がある。輸出の減少が設備投資、雇用、個人消費に連動し、わが国全体の景気動向にも影響を与える。昨年のわが国の税収は46兆円の予想を大きく下回る37兆円まで落ち込み、本年は税収をはるかに上回る51兆円の赤字国債発行が見込まれている。

最近、米国の経済指標が悪化しているが、これは世界的な株安への兆候か。これまで米国への輸出拡大がわが国経済を支えてきたが、米国の経済拡大は当面期待できず、好景気を支えた住宅バブルや自動車輸出もかつての勢いに戻ることはあるまい。一方、中国に生産拠点を移した外資系企業も、台湾・富士康問題に見る人件費の高騰や相次ぐストライキ・自殺問題などを抱えている。それでも中国のさらなる内需拡大が期待されている。

米国や中国に代わる輸出国としてブラジル、ベトナム、インド、ロシアなど新興国が挙げられる。しかし、これまでのように技術を独占しての化学製品、原材料、工作機械、部品など中間財の輸出は、技術者の流出が顕著で利幅が少なくなった。グローバル化経済は世界全体の人件費、技術、ノウハウが共通化し、コスト競争が激化する局面を迎えている。

すべてのしわ寄せは中小企業に

米国のリコール問題で揺れたトヨタ自動車の決算は2期ぶりに1兆円規模の黒字で収益を改善した。しかしこれは人件費の削減や生産コストの低減という下請け企業の犠牲のうえに成り立つものだ。大企業の決算は大方黒字であるが、雇用や個人消費が伸びないのは中小企業にうるおいがないからである。政府も大企業もすべてのしわ寄せを絶対的大多数である中小企業に押し付ける黒字決算だった。これではいつまでたっても日本経済全体が回復できない。これまでわが国政府は新産業の創出や産業構造の改革に必要な資金や方向性すら示唆していないのだ。

民主党政権は中小企業の景気下支えや回復策に万全を期すべきであるが、いまのところ子供手当をはじめとする経済効果の少ないバラマキ型給付で頭がいっぱいだ。のみならず、政権発足当初は16兆円の無駄遣いを削減できるとマニュフェストで公約したものの、今のところ削減額はわずか7千億円しか達せず今後も期待できない。しかも恒久的な財源はどう捻出するのかという議論も聞こえてこない有様だ。当初の公約どおり総額5兆円以上のバラマキ政策を行っても、消費拡大、雇用の創出など、経済活性化につながらなければ単なる捨て金だ。これらの財源は赤字国債の発行で埋めるか、消費税増税に踏み切るしかない。

最近になって菅首相は自民党が参院選向けに掲げたマニフェストに相乗りするような形でいきなり「消費税10%」をぶち上げ、増税路線を明確にした。仙石由人氏は増税については国民の理解と支持を得ていると話す。しかし、選挙に勝つために国費をばらまく民主党マニフェストはけしからんと世論の大勢は怒りをあらわにしている。もともとマニフェストとは国民と政党の社会契約に他ならない。

日本企業の法人税40.69%は企業の成長と安定を削ぐもので、利益を上げている企業が悲鳴を上げている。たとえば本社を香港に移せば法人税は20%、欧州は30%前後、アジアは25%以下だ。菅首相は財源不足と赤字体質を企業からの増税でまかなえば財政、経済、社会保障が回復するといっているが、その前に増税で中小企業が先にぶっ倒れてしまいそうだ。

公務員の人件費削減なき増税論

政治と経済は一体であり、歳出を増やせば赤字になり、赤字を増やせば借金だらけになる。政治も行政も権力と権益を悪用して全国至る所に無駄遣いを拡大・温存してきた。税収不足を赤字国債で補い、さらに増税で企業や国民に負担をかける手口は自民党時代と何も変わらない。

国家公務員の高い人件費、天下りなど行政の無駄遣いは放置されたままである。本丸と言われる人件費は民間企業とあまりにも格差があり、行政はまず人件費から手を付けて切り抜けるべきだ。しかし、民主党の無駄遣い削減策には人件費削減がさっぱり聞こえてこない。

民主党内には連合傘下の最大組織、自治労、日教組、部落解放同盟など、社会党時代からの労働団体や様々な左翼運動団体との密接な「つながり」がある。彼らが民主党の選挙を支える主力支援団体なのだ。行革の本丸は官の人件費であるが、これでは公務員のカットは不可能に近く、公約は最初から嘘だったことになる。わが国は国会議員も行政も自分たちの身を削らず国民に負担を押し付ける安易な道を選んで来た。菅政権の「消費税10%」はメガトン級の爆弾で中小企業を木っ端微塵に粉砕しよう。参院選を前にして野党のみならず与党内からも反発の声は必至であるが、それでも政府は国民の理解と支持を得られると考えている。

ものづくりの底力

このように政官の無策と無知によって、年々国体の弱体化と地盤沈下が顕著だ。わが国は1990年代中国の安価な労働力に頼り海外に生産拠点を移し、雇用が失われて来た。これは「産業の空洞化」であったが、今では規制緩和と生産性向上、研究開発が効を奏し軌道修正されつつある。中国の労働賃金の上昇でリターン現象が起こり、中国から日本国内でのコストダウン生産が可能となり、わが国の生産回帰が活発だ。

さらに、いまでは企業のグローバル化が急速に進み、新興工業国や中国向けの輸出が急速に伸びつつある。わが国製造業の業績は増収、増益の連続であり、バブル期に戻る高水準だ。これは外需依存型企業として外部環境のグローバルな変化に対応し、利益を出せる生産体制と商品づくりにある。大企業は今期決算で前年を数ポイント上回る業績で好調を持続中でやっぱりわが国製造業は強いとの感を強くする。

わが国製造業に対する信頼は手抜きのなさ、品質のきめ細かさやこだわりにある。“相手の身になって考える”という日本人精神が商品の到るところににじみ出ている。中韓の企業は目に見えない部分を手抜きするが、目に見えない部分をきれいにするのは精神の問題だ。わが国の特長は中韓にない伝統文化による完璧な芸術的精神性であり、品格である。中韓は物凄い勢いで日本企業の技術やレベルに近づいているが、日本の精神文化に追いつくのは難しい。

消費税10%という地雷を踏む

今後わが国は人口減少と高齢化で先述のとおり経済規模が縮小する。それゆえ狙うべき対象は新興国の中間所得層である。中国人観光客が日本に落とすお金は2010年に1300億円、2015年には5000億円以上に増えると見込まれている。ホテルや百貨店も中国人の集客準備に余念がない。名古屋の名門、かに本家(日置達郎社長)では、中・韓観光客の売り上げ増に伴い、中国語の話せる従業員を増やし、外国人向けサービスを強化している。

今後、省エネや環境、医療、介護、農業などわが国が得意とする分野が世界経済に大きな役割を果たすことになる。これには中小企業から優秀なアイデアとものづくりが期待されている。菅政権はまずバラマキ給付金を止め、これら中小企業の活性化、投資、研究減税など後押しをすべきだ。中小企業を元気にすれば雇用が生まれ、消費が拡大して税収が増える。菅首相の心変わりを期待したい。

日本経済が回復する条件が揃いつつある。今後外需依存と共に内需拡大で外国人観光客の誘致など、日本人古来の伝統や精神性が売り物になろう。一方、菅首相の増税は地雷を踏んだと同じで、選挙戦は消費税問題で与党内の反対に加えて野党や世論も敵に回すことになる。菅氏はこれまでしたたかな市民運動家であったが、今後は国家をしたたかに再生してもらいたいものだ。

次回は7月1日(木)