山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ   苦境を打破し、未来を展望-台湾はいかにし   て世界の変化に対応すべきか(前編)   台湾元総統 李登輝

2010年04月01日

3月12日、台湾で行われた時局心話會「海外研修会」の李登輝元総統の講演内容は、多くの企業経営者にとって現在の未曾有の不況を打破する示唆に富んだものであった。二回に分けて講演とその後大いに盛り上がった質疑応答の全内容をご紹介したい。

苦境を打破し、未来を展望ー台湾は如何にして世界の変化に対応すべきか(前編)
台湾元総統 李登輝

私が総統を降りた西暦2000年以来、台湾の経済発展は国内政治の不安定と2008年10月に突然起きた世界規模の景気後退の困難と危機に襲われています。新政府の判断、策略決定力量の不足は台湾の人民をますます五里夢中に陥れています。如何にして現在の困難を打破して新しい方向を探し出すかが、今、大衆の関心事であります。私は今日この場で下記の四つの問題と解決方法を提起したいと思います。

一)世界金融のショックと需要の大幅減退下に於ける台湾
二)台湾経済の挑戦と機会
三)失業と貧富の拡大問題
四)産業構造の再調整

一)世界金融のショックと需要の大幅減退下に於ける台湾

(1)世界金融のショックと需要の大幅減退下に於ける台湾
今回の地球規模での景気後退は、いままでの不景気とは違い、注意しなければならない特徴が存在しています。以前は世界経済の一部が景気後退に見舞われても他の地域は安全が保たれていましたが、今回は、世界規模で起こり、中国やインドの経済成長でさえこれを支えきれないでおります。
突然発生したことも注目に値します。2008年10月以降、特にその半年間の急激な需要減退は、実に衝撃的で恐ろしい時期でした。今回の景気後退を予測し難いものにしたのは、企業と金融界は過去十年間、多くの面でより開放的となり、透明性を増したものの、ヘッジファンドや投資銀行などによる闇の銀行システムが保有する負債と債権が崩壊したことにより、突然大打撃を受けたのです。国際的金融統制を預かるIMFが全くその機能を失い、欧米や日本政府が大掛かりで前例を見ない施策をとって、一時的に状態が納まったように見えましたが、今後も想定外のことが起こる可能性があります。このような状態の下で、台湾はいかなる対策を採るべきか検討しなければなりません。

台湾は対外依存度が高いため、欧米の景気後退による打撃に注意しなければならない。また、失業者の増加、金融システムの救済による納税者の大きな負担、公的負債の増加に対する社会的、政治的な反応が変化し、世界需要が更に減退することは必然と見られます。

台湾の中央銀行が今年1月に発表した「台湾経済情勢の回顧と展望」の報告によれば、2009年の経済成長率は2008年の0.73%からマイナス2.53%に減退しています。そのうち第4四半期の6.89%という未確定的な統計数字によって、前年でマイナス2.53%になっていますが、第1四半期から第3四半期だけの平均ではマイナス5.76%となっています。輸出入の激減が主で、国内需要はこれに次いで減少しています。

また新政府は、2010年の台湾経済成長率を高めるために強く香港、中国に依存する政策をとっており、これにより、国内経済は暫時的に回復したようにみえても経済発展の動態的能力は強くはなりません。輸出の促進は多方面の努力が必要であります。為替率の適正、インフレ傾向の促進、国内投資の努力など、非常に重要な措置があると思います。

(2)海外、国内の金融規制が酷く落伍している
金融危機の根本は国際金融に端を発している。
闇の銀行システムが、欧米の金融機関の不正行動によって多くの複雑なデリバティヴ関連商品を作り、不良債権に高利息をつけて、開発途上国の資金を
吸い上げています。低利率を維持している台湾では、金融機関が大規模な「理専」を使って、欧米の債権の売り上げで収益を上げており、これら不正常な金融操作にリスクが集まっている事実は、規制当局者、IMFや金融機関自身でも大規模に隠蔽されています。
台湾では、こういったずさんな金融政策に対して極端に安価な信用供与を行い、税制上の欠陥と金融機関のリスキーな行為を調整せず、銀行の合併を促進する金融改革が行われてきたのです。台湾は大海を航行する小船のように、自主的な経済金融を保持することはありませんでした。

(3)自由化と地球化は適切な規制が必要であり、放任主義であってはならない

一般的に金融の自由化と貿易の自由化は経済的に有利であると多くの人が認めています。過度に経済有利にあると認める過ちは、資金、商品、人員の国家間の移動に於いて、難度の程度が異なることによるのです。目下、台湾経済における二大危機は、中国に対する過度の依頼とエネルギーへの過度の依頼です。政府はこれに対する有効な対策を持たず、逆に自由化を放任と曲解し、すべて関与すべきでないと考えています。

その結果、政府は台湾商人の中国投資に対しては、ただ個別会社の要求に基づいて、その開放の声を聞き、開放後に起こる社会的なマイナスの衝撃を考えていません。
金融グローバライゼーションに対しても同じく、ただ放任と金融機関の合併を奨励するだけで、金融の管理、規約の修正などが重要であることを強調していません。

若し、政府が依然としてこの様な簡易な自由市場を考慮して、商人を放任し、人民には開放後における社会的悪効果を負担せよと強調したら、人民の支持と承認を得ることは非常に難しいことになると思います。

(4)施政目標は絶えず機会とリスクの間にバランスをとるべきだ

グローバル化において、商品、資金及び技術の国家間移動が自由になり、政治障害が除かれた後、商品市場はもはや政府地域の制限を受けず、各主要市場が、EUのように逐次単一市場に整合される可能性もあります。然し、グローバル化によって大多数の人間が自由に国家を選択することはないでしょう。

大多数の国民の経済活動は、やはり国家の領土内で行われるものです。ですから、国際的に自由に移動できる資源の所有者から言えばグローバル化
は一種の機会でしょう。しかし、その他の人民にとってそれはリスクと脅威でしかありません。政治の施政目標は必ずこの両者を考慮し、バランスのとれた状態を維持すべきであると思います。

二)台湾経済の挑戦と機会

1970年代のエネルギー危機が終了した後、欧州先進国は国家経済の自主性が国全体の発展にとって重要であることに気付き、国家の生存と発展の経済優位性は、その国の所有する技術と資源の開発、管理と分配能力に依頼するものであることが明白になりました。

(1)経済自主性を高めること

上述した台湾経済の二大危機―即ち過度の中国依存と過度のエネルギー輸入は、経済自主性を軽視した結果によるものです。政府は必ずエネルギーの自給度を高め、内需産業の発展を促進することによって将来におけるエネルギー不足の危機を避けると同時に、国際景気後退が台湾の経済後退が台湾の経済に与える衝撃を避けなければなりません。

(2)革新によって経済発展を促進すること

台湾の人民は過去の経済発展過程に於いて、常に未来を展望し、国を超える技術移転と国際競争に対しては、絶えず各製品の革新に注意し、商業的機会と発展の潜在性を洞察し、機会を見失わず、新しい市場の開拓を行って製品の競争能力を高めて来ました。

革新は台湾経済発展の原動力であり、企業家は革新によって利潤を獲得することが出来ます。全体的経済の発展は、これら企業家の不断なる革新の創造的破壊過程と言えるでしょう。革新によって、現在の技術と製品が取り替えられ、発展によって、有る程度成熟に達した産業が若し革新されなければ、やがて斜陽産業として取り残されるでしょう。

市場の需要が増加することにより、初めて革新の機会が得られ、企業はそれに誘発され、研究開発に身を投じ、成熟した産業が新しい別の発展期に入るのです。経済体系内の如何なる産業も、発展期と成熟期はまちまちでバランスをとるべきです。そのため、如何なる時期にもある産業は発展期にあり、発展と成熟は交錯して存在し、革新は不断に起こり、経済の発展を促すのです。

この続き(後編)は次週4月8日(木)