山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     露呈した台湾吸収のシナリオ

2010年03月14日

昨年暮れ、台湾の台中で第4回中台交流機関のトップ会談が開催され、その会場近くで、野党・民進党(独立系)を中心とする10万人規模の抗議デモが行われた。馬英九政権が進める対中関係政策の改善を求め、デモ隊は市内を行進。民進党の蔡英文主席をはじめ、各地域から独立系有志が参加した。「馬英九は即刻辞任せよ」「台湾と中国は別の国だ」「馬英九は台湾を売り渡すな」などのプラカードが林立。これは馬政権が、中台統一を前提とする「四つの協力」への調印を阻止する運動である。

台湾はここに来て、中国との平和協定はきわめて厳しい状況にある。今回の大規模デモは、今後の台湾情勢を大きく変化させる兆候と見てよい。

進む中国の対台吸収工作

中国の台湾工作は馬政権の誕生で具体化されてきた。馬政権による対中友好・経済関係の促進は台湾を一つの中国に組み込む手段である。それゆえ台湾人に対して中国は親近感を抱かせる戦術が必要であり、群衆掌握による心理戦の展開が顕著だ。

台湾に対する微笑外交と融和政策は中国に対する警戒心を解き、良きイメージを抱かせるための有効な手段であった。そのために各種、文化、スポーツ団への派遣を行い、中国への警戒心が無意識のうちに消えてゆくよう、揺さぶりをかけるのが狙いだ。

さらに台湾人を完全洗脳するにはマスコミが最大の武器だ。台湾マスメディアの操作を可能にするため、台湾の新聞、テレビ局、雑誌社に中国資本の投入を行っている。かつては市民の声を代弁する台湾マスメディアの存在が彼らの世論達成に不可欠な存在になっている。今やつまり、中国がマスメディアを操作し台湾人を洗脳・支配する都合のよい世論が形成されつつある。

2012年台湾陥落

今、台湾で『台湾大劫難』という新書が出版されているのをご存じであろうか。これは2004年7月にオーストラリアへ亡命した元北京大学の法学部教授であり、自由派でモンゴル生まれの作家、袁紅冰氏の著書だ。初版はすでに完売し現在5刷を超え、各書店に予約注文が殺到したと聞いている。しかし筆者は台北市内の書店を探したが、どこにも見あたらない。これは何者かによる買収工作だと直感した。

或る情報筋の話によると、この書籍を書店で見かけないのは、国家安全局が「圧力をかけたからだ」と言う。中国政府は一書籍であるにも拘わらず
“内容はすべて捏造である”と異例のコメントを発表した。この本はあまりにも衝撃的な内容の連続で「中国は台湾との経済関係を深めつつ、台湾人の中国頼りを加速させ台湾人を完全支配する。中国の傀儡政党をつくり、台湾政治をコントロールする」というものだ。この書籍の邦訳版は本年5月迄に「胡錦涛の世界戦略」と題して、まどか出版から発売される予定だ。

この本の内容は中国政府による台湾攻略の極秘情報で、2012年までに台湾を全面的にコントロールして陥落させるというものだ。さらに中国が台湾の政治、経済、軍事、文化など各分野を掌握し、戦わずして台湾を奪取するという驚くべき作戦内容である。その中国政府の最高機密文書と録音資料が台湾人の前に暴露された。これは「中国共産党政治当局拡大会議」発、台湾侵略に関する秘密資料である。つまり、胡錦涛国家主席ら中国政府の各界代表らが主導する情報でありお値打ちものだ。

『台湾大劫難』によると、この会議は中国の中央政治局員の他外交部、公安部、国家安全部、各軍区および軍部からも責任者が加わり、合計200人余りが参加する台湾陥落大作戦だ。それ以外にも、台湾の一部勢力がこの作戦に加担している。

国を売る台湾人の実力者たち

同書で「中国政府が台湾国民党の幹部らに値上がりを見込んだ不動産や株式を購入させ、金に目がくらむ国民党幹部に貸しを作って取り込む」という記述があった。すでに国民党元主席の連戦氏はこの策略にはまり、全資産を中国に投資している。連氏は中国政府の傀儡として統一への道案内を引き受けたとされている。氏は台湾人でありながら、台湾を思う愛国心などなく、自らの資産の増殖で頭がいっぱいだ。中国側は連氏をいいように操っているのが現実であり、台湾の友人は「連戦は非国民だ」と言ってのけた。国民党の実力者・呉伯雄元主席も統一派で、連戦氏と行動を共にしているが、国民党のみならず中国を巡る「政治とカネ」は民進党内部にも手が伸びている。

『台湾大劫難』によると、先に述べたとおり中国は台湾のマスメディアに資本投入して言論統制を行い、台湾人を意のままに情報操作することで台湾を飲み込んできた。さらに経済面では金融や株式を操作し、農産物の大量購入、観光客の送り込みなど、台湾人をじわじわと引き込み、台湾社会を侵食しつつある。2012年までに台湾を陥落・統一させる軍事行動なきプログラムは着々と実行に移されている。

2012年は胡錦涛国家主席の最終任期であり、同年春には台湾で総選挙が行われよう。したがってそれまでに、国民党の協力が必要不可欠だ。連戦氏をはじめとする一部勢力らの動きも激しく、台湾はまさに危急存亡の時を迎えている。『台湾大劫難』を読んだ台湾人たちは「やっぱりか」とショックを隠せない。民進党の陳亭妃議員らが馬総統と国家安全会議事務総長の蘇起氏に対し情報説明を求めるなど、国民党政府も最大のピンチを迎えている。昨年、中国の海峡両岸関係協会の陳雲林会長も「我々は台湾戦略の持ち出しをすべて露出した」とのコメントを発表。これからどのように物事を進めるべきか、中国側のとまどいは隠せない。

経済一体化の次は政治的統一へ

中国資本が入った台湾の一部メディアは、中国側の意向に添った世論作りを行い、重大な国難を迎えた今も真実が報じられていない。その中にあって「自由時報」が、台湾人の砦を守る唯一の報道機関として奮闘している。これには董事長の呉阿明氏の存在が大きい。祖国・台湾の独立と民主化を犯すいかなる事態にも断固として戦ってきたマスメディアの鑑であり、日本人の一人として尊敬の念を禁じ得ない。

馬政権の対中政策は企業の中国進出で経済一体化を加速させつつある。台湾人は選挙で、独立よりは現状維持を選択し、経済的利益を優先して馬政権を誕生させた。今や中国への進出企業は7万社、中国人雇用は1500万人に達する勢いだ。これが両国経済に大きなプラスをもたらしているのは、紛れもない事実である。中国政府に誘導され、労働力の安い奥地に入った台湾企業はあらゆる面で優遇されている。こうした台湾陥落作戦は着実に進行し、経済一体化の次は政治的・軍事的統一が見えてくる。

これまで台湾を支えてきた米国だが、オバマ政権が中国と利害を共有するG2時代に入り、台湾の現状維持を守ることで精一杯だ。またわが国は中国追従外交で、鳩山首相らは台湾への関心などまったく眼中にない。しかも与野党議員らの大勢は中国詣でをしても、台湾には無関心である。

微笑外交と融和政策に潜む罠

胡錦涛主席は08年10月の中国共産党全国代表大会で「一つの中国原則を堅持し、祖国の平和的(台湾)統一を勝ち取る努力を決してあきらめない」と強調した。中国は台湾の陳水扁総統の8年間は「一つの中国と認めるなら仲良くしよう」という方針だったが、馬政権になってからは強硬な統一路線から融和路線に軌道修正している。これは中国の台湾政策がうまく機能していることの証であり、次は台湾人の対中不信感の払拭に、さらなる微笑外交が展開されよう。

しかしながらこれらの経緯とは別に、このまま中国経済の甘い蜜に群がっていけば、やがて落とし穴が待っている。次の選挙で台湾人が判断を下すしかない、という思いが広がりを見せつつある。独立派や統一派を超え「台湾は台湾人のための国家である」との認識に立った政党の誕生が待たれていよう。あらゆる調査によっても、台湾人の90%近くが「現状維持が望ましい」と考えている。「台湾にはすでに中華圏唯一の民主国家が成立している」との李登輝路線の継承をアピールできる政党がよい。台湾は「自由と民主主義、人権と法治」という価値観を持ち、日米と共有できる国家であることを、改めて内外に強調する戦術が求められよう。その理念と政策を内外にアピールできる説得力を持った、魅力ある台湾国リーダーの登場が待たれている。

次回は3月18日(木)に発行いたします。