山本善心の週刊「木曜コラム」  今週のテーマ     「検察VS小沢」

2010年01月28日

小沢一郎・民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件で、東京地検特捜部は23日午後、東京都千代田区のホテルで、小沢氏から任意の事情聴取を行った。小沢氏は聴取後同ホテルで記者会見を行い、収支報告書の虚偽記入に関して「一切関与していない」と身の潔白を主張した。

小沢氏が公表した「説明」の骨子は「政治資金収支報告書の記載については全く把握していなかった。実務は秘書に任せていた。」「土地代金に充てた4億円は自分の個人資産を陸山会に貸し付けたもの。建設会社からの裏献金など不正な裏金は一切もらっていない」(10.1.24 読売新聞)

これまでマス・メディアは小沢氏が説明責任を果たしていないと繰り返してきた。しかし、これ以上小沢氏に不正の確たる証拠が出てこない以上、検察の敗北だ。次は鳩山疑惑であるが、これも世論はまたかと嫌気をさそう。

絶大な検察の権力

今回の「陸山会強制捜査」問題の本質は東京地検特捜部と政治的権力者である小沢一郎氏との権力をめぐる全面戦争である。検察リークで一方的な小沢潰しにメディアは手を貸してきたが、幹事長を辞任しない限り、小沢氏の勝ちだ。

その後地検は小沢秘書らの明確な証拠や容疑事実を立証することなく、3人の秘書を一方的に留置したままだ。これは、かつての田中角栄元首相や金丸信元自民党副総裁ら政治権力者たちの根拠ある金脈と不正を追及するケースとは異なり、あくまで推測による容疑に他ならない。地検は小沢氏の「政治とカネ」にスポットを当て、メディアを使って小沢氏の謝罪と辞任に迫るというこれまで通りの儀式は機能しない。検察側に近い情報によると、1月15日の小沢秘書3人の逮捕と同時に検察は小沢辞任を画策したとみられる。しかし予想に反して小沢氏は動じなかった。

これまで充分な証拠がなくても、疑いがあるというだけで検察の恫喝に政治家は負け犬同然に尻尾を丸めてきた。お上に刃向かう政治家をメディアが叩いて一件落着となるのがこれまでの通例であった。しかし検察は小沢氏が不正を嫌い「政治とカネ」には用意周到で立ち入る隙も与えずだ。

検察権力に世論が変わる

しかし、元々小沢氏は水谷建設であれ企業であれ不正なカネは手にしないというのが昔からの政治信条であり、基本的姿勢である。これは政治家の模範といえよう。今後、いかにこの事件が進展しても、小沢氏から土地購入の原資で不正な事実は出てこない。このことに関して、筆者は大久保秘書逮捕の際、弊誌227号「地検特捜の敗北」(09.4.16)で今後の予測も含めて詳しく小沢事件を解説しているのでご参照頂きたい。

この問題で、最近筆者らの集まりや会議でも大きな変化が見られる。これまで、小沢氏に批判的であった者までが、検察のメディア行使による政治権力潰し、「小沢氏=悪」という世論づくりに首をひねり始めている。これは、時代の変化とインターネットの影響で世論の見方が変わろうとしている兆候ではなかろうか。

検察リークタレ流しに不信感

これまで、田中角栄氏や金丸信氏にしても一度嫌疑をかけられ睨まれたら最後、検察・マスコミの圧力に白旗を掲げた。今回もこれまでと同じような経緯で①小沢氏が責任を取って幹事長を辞める②小沢氏が何度説明しても自白するまで認めない③小沢氏の金の行方をいつまでも追及するふりをする―等。しかし①小沢氏側は幹事長を辞めない②公平・公正な捜査ならいつでも協力する③支払った4億円は小沢氏個人のもので、秘書らに渡し、その後の収支報告書の記載にはタッチしていない―と突っぱねた。

つまり、検察は正義で、それを報じるマスコミ報道を正しいとするこれまで通用した図式の中で、容疑者とされる小沢氏が初めて検察に反論できたのは世論の検察への不信によるものだ。

会社で社長個人が自分のカネを出すと言えば、経理担当者がその収支を記載するのが当たり前で、社長が記載までやるというなら経理も秘書もいらない。この事件ははじめから犯人小沢在りきで、検察側が意地とメンツを賭けても小沢氏の息の根を止めたいところであろう。しかし検察の期待に応えられないのが正義というものだ。

小沢氏はカネに清廉潔白

新生党時代、ある中華料理店で食事の後、筆者の知人が100万円の現金を小沢氏に渡したいと言った。私は受け取らないから止めなさいと彼に注意したが、彼はエレベーターの中で現金を渡そうとしたのである。小沢氏は「お金は受け取れません」と逃げるように車に駆け込んだ。

検察はいくら小沢潰しを画策しても、小沢氏側に裏金疑惑や不正蓄財の事実があったのか。不正蓄財の事実がない以上小沢潰しは難しいだろう。検察はこれまで資料を収集し徹底的な捜査を行ってきたが、ホコリ一つでてこなかった。小沢氏に会ったこともなく、何も知らない識者らが新聞・テレビで小沢氏の言葉尻を捉えてでたらめな発言をしているのは聞き苦しい。彼らは人間小沢氏の本質をもっと勉強してから発言してもらいたい。

何が不正なのか

なぜ、衆院選挙前の大久保秘書逮捕から参院選挙前の石川知裕衆院議員逮捕に到る間、地検側から確たる不正の証拠が出てこないのか。つまり、これまで小沢一郎幹事長の4億円を巡る原資の在り方に不正を追及する容疑であったが、今回の事情聴取では小沢氏個人が土地購入資金を出しただけのことで何のことはない。

もともと小沢夫妻は資産家である。政治家の資金管理団体の中で不動産を所有しているのは「陸山会」だけと聞いている。「陸山会」は東京都内に9件、岩手県、仙台市などに高級マンション、沖縄に不動産を所有。これらは億ションといわれる価値のある物件も含まれている。

業界では小沢氏のことを“政界の不動産屋”という人もいるが、企業献金の大半を資産に替えるなど堅実な資産運用を行ってきた。小沢氏にとって個人で4億円を立て替えるのは何の問題もないことである。

小沢氏は資産家

たとえば、小沢氏の妻、和子夫人は、新潟県の大手ゼネコン「福田組」のオーナーの長女と聞く。小沢氏は、和子夫人とは田中角栄元首相の仲人で1973年に見合い結婚をした。この和子夫人は福田組の監査役を務め、現在も約140万株を保有している。和子夫人はこの福田組から毎年6千万円前後の収入があり、納税額も約2千万円以上といわれる高額所得者である。

また、小沢氏は毎年開かれているパーティや正規の政治献金、小沢氏個人の収入など、資金源は潤沢である。小沢氏は資産と安定した選挙基盤に恵まれ、自らの政治活動に没頭できる恵まれた政治家なのだ。

特捜部捜査の焦点は小沢氏の裏献金とか不透明な資金を究明するとあるが、いくら掘り起こしても何も出てこないというのが結論であろう。小沢氏にとって「政治とカネ」の不正は政治生命の終わりを意味する。これは「政治とカネ」で政治生命を失脚した二人の師を抜きに考えられない。

小沢氏はクリーン

小沢氏が師と仰ぐ田中角栄元首相は1976年にロッキード事件で逮捕されている。また、庇護者であった金丸信元自民党副総裁も不正資金で逮捕された。小沢氏は両氏の裁判には欠かさず出席し、二人が「政治とカネ」で失脚する哀れな最期を見届けている。

小沢氏は「政治とカネ」は政治生命に係わる生命線であることを誰よりも認識する政治家である。それゆえ、決して不正献金は受け取らない。政治資金収支報告書への記載は慎重であり、厳しいチェックを怠らない人だ。

今年の参院選を前にして霞ヶ関の小沢潰しは執拗である。これまでわが国の絶対的な権力構造を壊そうとする民主党の実力者に対する宣戦布告であった。

小沢政治の四半世紀は改革に次ぐ改革であり、“二大政党制、政策による政権交代”が念頭であった。実のある政治を営々と築いてきた小沢政治であるが、つくられた不正献金や不正記載でかき消されるほどやわな政治家ではない。ましてや、カネに恵まれた政治家がやることではない。いまやつくられた小沢劇場「政治とカネ」のシナリオをみて世論は少しずつ権力やメディアに不信の眼を向け始めていまいか。