山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     「2010年意向の経済環境」

2010年01月10日

時局心話會 代表 山本善心
新年にあたり、まず日本経済の行方と経済環境について私見を述べてみたい。新聞や雑誌の経済面では、専門家らによるさまざまな予測や見方が投げかけられている。しかし国際動向の整理・分析がなければ、経済という生き物の身勝手な流れを把握できない時代を迎えたのは確かだ。

グローバル化で世界が一つの経済単位となり、わが国は米国のアングロサクソン流市場原理、株主至上主義、競争原理というルールを押し付けられ、引っかき回されて来た。

もう一つの津波である中国が、強烈な勢いで世界の資源を喰いあさっている。中国は今後数年、赤字国債の発行を増発し、内需拡大に進むしか生き残りの道はない。しかし関係筋の現地調査によれば、中国の有識者らの反応は「カネの無駄遣いに終わる」と、冷ややかであった。超格差社会への過度な景気刺激策は、地獄と隣り合わせだ。今後の財政出動と軍備増強が「国庫の赤字」「双子の赤字」を果てしなく増大させ、やがてパンクを迎えよう。

人口の高齢化・少子化

現今、わが国国民の風潮として、競争原理による自由競争が、わが国古来の正直さ、誠実さ、思いやりを損なってきたのである。米国型金融経済の本質とは、目先の打算や小才に走って墓穴を掘るのが関の山であった。これからは、わが国の商人道が見直され、世界の動きに連動した日本型経営が主流になることで、世界経済秩序は修正されよう。

筆者はこれまで資本主義の終わりを何度か強調してきたが、今や世界は債務国だらけになっている。わが国も赤字国債を大量発行して財政出動を行い、消費の落ち込み、雇用の激減、パイの縮小を避けるしかない。中国では2010年に銀行融資残高を100兆円増額し、金融緩和継続を鮮明にする。このように中国の大盤振る舞いで来年はバブルが絶頂期を迎えるとの見方も出てきた。

わが国では、急速な高齢化と少子化が進行中だ。2005年には65歳以上の老人が人口の30%を占め、このままでは2055年には全人口が8993万人、2100年は4500万人まで減少するという。

インフレの波はいつ来るか

わが国の経済規模が縮小しつつある最大要因の一つは、90年代バブル崩壊後からデフレ進行が止まらないことだ。1970年代は大インフレの時代に突入、1974年は物価が23%以上も高騰し、狂乱物価で世間が大騒ぎした。

今後、消費がこのまま停滞すれば、ここ数年さらなるデフレが続くかもしれない。しかし新興工業国であるBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)は10年で2倍の成長が予測されている。その過程でエネルギーが大量に消費され、石油価格が上昇すれば、インフレの可能性が見えてくる。

つまり石炭や天然ガスなどの価格上昇が起爆剤となって、日用品や食糧などの諸物価に跳ね返り、インフレに向かうとの見方である。一方わが国では高齢化や年金、医療、福祉など財政支出の増加に歯止めがかからず、税収の激減とあいまって今後のインフレは避けては通れない。そうなれば国民資産も減ることになろう。

労働力の減少が加速

もう一つの問題は、日本の人口減少に伴う労働人口の激減である。高度成長時代は産めよ増やせよで、人口の増加が顕著であった。しかし団塊の世代のピークといわれる「2007年問題」を機に、定年退職が加速する。かつての人口増加は消費・需要の拡大を招いたが、労働人口の激減は税収減や消費の停滞など、経済の下降トレンドを招くのは自然の成り行きだ。

労働人口の母体となる生産年齢人口(15~65歳)は95年を境にマイナスに転じており、2007年問題による労働力激減の副作用が現れはじめている。こうなるとGDPはどんどん下降せざるをえまい。最近、「まもなく日本はGDPで中国に抜かれて第3位になる」という記事が紙面をにぎわしている。新興国・中国、および人口構造が飛び抜けて若い米国の労働人口は、今後もGDPを増加させよう。

わが国の人口が減少すれば生産力に影響し、輸出にも響いてくる。国内に目を向けると、長引くデフレと消費の停滞に失業者の増大が顕著だ。昨年1年間で92万人が解雇され、ますます悪循環に陥っている。このような状態が続くと、余裕のある人もさらに財布の紐を引き締めざるをえまい。

雇用を減らし、設備投資を絞る

今、大企業の内部留保金は200兆円から400兆円に増えている。しかし大方の中小企業は借金だらけで、雇用確保どころか解雇せざるをえないのが実情だ。ましてや高卒内定率は9月で38%と、あまりにも低すぎはしまいか。

企業全体の売り上げは年々減少し、労働力が減り、生産能力も落ちていく。売上の減少で原材料の仕入れや設備投資の返済などの資金繰りに行き詰まり、このままでは銀行に返済できなくなる企業がさらに増加しよう。さらに従業員を簡単に解雇できず、固定費がかさんで累積債務が加算されるのは必死だ。

今後の企業はまず、売上と利益に見合った適切な雇用人数と、設備投資の適正規模が生き残りの条件となる。さらにサービス産業では商品開発やブランド化、IT化など、企業経営の仕組みをネットワーク化して、効率的に様変わりさせる工夫と努力が問われよう。わが国の雇用状況や景気の下げ止まりなど今年の経済環境は、中国、インド始め各国の状況好転が予測され、今年後半から大底を打ち、L字型回復が期待できよう。

こだわりの経営

これまで、教育や農業、医療などは未改革分野であった。これらがIT化されると、サービス産業のGDPに占める割合は90%を越え、生活充足の中でどれだけの需要があるかとの声もあるが、消費型経済が主流とならざるを得ない。さらに製造業は、環境技術を武器に成長軌道に乗ることが不可欠だ。

サービス産業の拡大に伴い、経営者自身のセンスと資質、能力を生かした内容、好きな仕事に深化して熱中してやればよい。経営者の価値観・こだわりに共感・同調する消費者が顧客となって、企業牽引の原動力になるのは間違いない。

時代の変化はチャンスであり、新しい流れが企業環境を変えていく。ビジネスの流れを大局的に見る習慣、世界情勢や文化、社会全体の動きに目をそらしていては乗り遅れるしかない。それゆえ経営者のレベルアップが一層強く求められ、見識と知恵の活用がいっそう強く問われる。

楽しくて為になる会

12月11日、名古屋時局心話會の忘年会が行われた。席上、ガスコンロの世界トップメーカーであるリンナイの内藤明人会長から「最近は企業のIT化で、国内売上の30%がインターネットの注文です」と話された。

リンナイでは全国から寄せられるネット注文を地域ごとに分け、代理店や販売店に回している。これは取扱法の説明、アフターサービスなど顧客の便利性を意識したものだ。

さらに内藤氏は「欧州の経営者たちはゴルフコンペの後講師を呼んで、1時間ほど最新情報の勉強会を行っている」という。十数年前になるが、セゾングループの堤清二氏から「楽しくて為になる会が主流になる」「世界の経営者レベルが高いのは、常に自らを養い高める努力を怠らないからです」とアドバイスを受けた。

成長に変えるグローバル化

わが国は人材が資源といわれてきたが、経営者個々の国際的な知的レベルは低い。すべては日本的発想でビジネスを展開するので、失敗が多い。企業の国際化とは各国の民族性、歴史、伝統文化に学ぶという意識の改革が問われよう。一方、BRICsの成長には、日本企業の技術や労働倫理、ノウハウを必要とする。

これからは日本的経営の強さを発見し、外来の良さを取り入れながら米中をうまく活用する発想の転換を行えば、日本経済が枯れることはない。例えば、観光立国もその一つである。

わが国の経済は投資主導型から消費主導型へと変化していくことになる。それゆえ先述の通り、投資や人件費の圧迫で経営負担を軽くする工夫が前提だ。効率化と多様化によるバラエティあふれる企業への転換が、日本経済を活性化しよう。

改めて、わが国企業経営者は近隣諸国の地域と共同で成長できる役割を考えるべきだ。連携強化には、相手国の歴史や民族性に学び、理解し合うことが前提になる。つまり、他国とともに成長する企業経営を視野に入れるべきではなかろうか。