「アジア会議」2018年2月26日(月) 講師/香田洋二 元海上自衛隊自衛艦隊司令官

2018年02月26日
  

 「北朝鮮情勢の一つの見方」

 北朝鮮は核と核弾頭の保有を宣言しながら、韓国との対話を再開し、平昌五輪をうまく利用して宥和の姿勢を見せた。核と核弾頭問題の本質は単なる米朝のにらみ合いではない。北の核保有を認めれば、イラン、サウジアラビア、エジプト、ブラジルも軒並み核保有に向かい、そうなれば、なし崩し的に中南米やアフリカの強国(自称)も追随し、核拡散が加速する。北は核を持って米国と交渉することはなく、抑止力を持った北は核保有を目論む第三国と交渉を始めるだろう。そうなれば国際社会の秩序崩壊につながる恐れもある。制御不能な核拡散の鍵を握るのが北朝鮮問題だ。北は五輪を利用し、韓国に強烈な揺さぶりをかけ米韓に楔を打ち込みたい。北の体制変更・崩壊を認めず、南北統一も急ぐ必要はないと考え、米軍が度線を越えない限り米の北への介入を表向き黙認する姿勢を示している中国だが、仮に米軍が38度線を越えずに核弾頭を無力化する行動を起こせば、中国には手の打ちようがない。制裁強化によって北朝鮮との貿易で利益を得ている中国企業や団体が強烈に反旗を翻し、習近平の独裁体制に綻びが生じる恐れもある。中国は本音では北の体制を維持したい。北はICBMの開発に自信を深めながらもトランプ政権がオバマ政権とは明らかに違うことを認識して以来、強硬姿勢から静観する姿勢に転じた。しかし、北の開発は高品質の試作品レベルに過ぎず、実製品として通用するかは疑わしい。北は米に抑止力を誇示したいが、米が北が実戦配備していることを頑として認めないことに苛立ちを隠せない。北は韓国文政権の親北姿勢を米韓離反の芽があると見て五輪直前に南北軍事ホットラインの再開はじめ、驚くべき迅速な行動に出た。五輪期間中は微笑外交を維持する公算が大きいが、韓国内の反北運動などによる北の態度急変や妨害、撹乱行動には注意する必要がある。一方、米朝首脳会談実現への期待は持ちつつもその実現の不透明性はぬぐえないことから、米国の問題解決の選択肢は軍事オプションに収斂しつつあり、やるとなれば単に威嚇にとどまらず、徹底的にやり遂げるだろう。香田氏は五輪前後の米朝、韓国の動きを追い、米朝間で展開する巧妙な心理戦について詳細に解説。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。