「政民合同會議」2016年9月5日(月) 講師/武藤正敏 前・在韓国特命全権大使

2016年09月05日
  

「朝鮮半島の現状と日韓関係」

 朴槿恵政権の外交政策は、北朝鮮の核・高性能ミサイルの実戦配備に対する危機感、中国の曖昧な態度への失望から、これまでの対話重視、中国寄りから日米韓重視の外交へと変わりつつある。北朝鮮は36年ぶりに行われた朝鮮労働党大会で核保有を宣言し、米国との直接交渉を目指している。北朝鮮が挑発行為を繰り返すほど韓国は日米に接近し、中国は心中穏やかではないが、北朝鮮の混乱は難民の増加、中国国内の混乱につながることから静観せざるを得ない。

 日韓両国の世論調査によれば、韓国民は基本的に日本好きであり、日韓関係が「悪い」という感情は政治・歴史問題に限った話だ。慰安婦問題については、国民が詳しい内容を知らず、韓国内で政治団体である慰安婦団体の声が大きく、反対の声が取り上げられない状況がある。一般国民と政治家・マスコミのギャップも大きく、韓国のマスコミは、親日のレッテルを貼られるのを恐れ、日本擁護の報道を避け、互いに牽制し合っているが最近では朴大統領の対日関係改善の方向に合わせ報道姿勢を変えてきている。ただ、政治家は変わらない。

 朴槿恵は反日ではないが、中国を重視し過ぎ、歴史問題にこだわり過ぎた。

 慰安婦合意は、今回、双方が基本的な立場を維持しながら妥協点を見出すことができた。韓国も相当譲ったという面でこれまでの日韓関係修復の時とは違う。また、韓国政府が財団をつくることで、これまで韓国が米国をはじめ、世界で行ってきた反日活動も効果がなくなってきた。

 韓国の政治史は対立と抗争の歴史だったが、いまは与野党で強力な指導者はおらず、与党は大敗し、「選挙の女王」と言われた朴槿恵の求心力の低下が明らかになった。

 財閥系の輸出企業に依存する経済モデルも限界に達するなど、韓国経済は低迷し、一般市民の不満のはけ口が朴槿恵政権、安倍政権への批判につながっている側面がある。

 とはいえ、日韓関係には様々な経済メリットがあり、韓国に進出している日本企業は利益を上げている会社も多い。日韓のそれぞれの強みで協力し合い、世界的にも競争力のある商品を作れる余地は多く、TPPが批准されれば両国の経済協力の範囲がさらに拡大されるだろう。

 武藤氏は、「日韓関係改善のためには、人的・文化的交流が不可欠」と強く主張。韓国民の考え方に精通する同氏は、「韓国内には日韓関係改善を主導する世論の指導者はおらず、両国民が互いに良さを知ることでしか改善は図れない」と訴えた。