「政民合同會議」2016年5月9日(月) 講師/古森義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員・麗澤大学特別教授  

2016年05月09日
  

「アメリカは日本に何を望んでいるのか-中韓との歴史戦から憲法まで」

 米国の大統領選は熱気を帯びるが、ドナルド・トランプが共和党の指名候補になると予想した人がただの1人もいなかった。トランプ候補の発言は極めて情緒的で粗雑で、一般聴衆受けはするが、政策的には意味も中身も少ない。しかし、米国人のある種の本音を代弁している。その一つが、米国の利益優先という見地からは日米同盟は米国にとって負担であるという、日米同盟の不平等性を指摘する主張だ。

 一方、トランプ氏の指摘とは対照的に、いま日米間は近年まれに見る良好な関係にある。両国間にかつての経済摩擦もなく、国民レベルの交流、友好は拡大。集団的自衛権が一部容認された側面もある。安倍政権の対米協調姿勢も米国内で高く評価されている。

 習近平政権以降、中国は明らかに米国を仮想敵とした軍拡を進め、米国に挑戦する新外交戦略など、強硬路線を続けている。これに対し、中国への警戒を強める米国の対中姿勢の変化が米国に安保面での日本重視をもたらし、日本にも対米関係強化という副産物をもたらしている。北朝鮮の挑戦的な言動、韓国の慰安婦問題などでの度を越した反日姿勢も米国を日本側に追いやり、日米の連帯を強める要因となった。

 日米同盟が現在のように不平等になったのは、そもそも米国が日本を非武装に押さえ付けておく方が得策と判断した出発点での原因があった。戦後、マッカーサーの命を受けた米国の弁護士によって大あわてで作られた憲法の最大の目的は日本を永遠に非武装にすることにあった。しかし、90年代ごろから米国内でも日本の憲法改正を是とする意見が生まれ、昨今は政権中枢も議会も日本の改憲支持に傾いている。このことは日本のメディアでほとんど報道されていない。

 しかし米中関係の悪化など外的要因を背景に日米関係が自然と強化されている現状に甘え、日本がいつまでも日米同盟に依存しているわけにもいかない。今後の日米同盟の方向性を左右するのは憲法だ。わが国の憲法の最大の特徴は武力を放棄する自縄自縛にあるが、これは米国が日本を防衛するという前提あってのものだ。米国が日本の改憲を支持する一方で、韓国は日本国内の護憲派と結び、憲法9条のノーベル平和賞推薦により改憲を阻止しようと躍起になっている。安全保障は日本国内のみで考えられるものではない。憲法作成の経緯の検証を含め、改めて憲法改正論議が必要だ。