11月24日「アジア安保会議」講師/田中 浩一郎 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授

2023年11月24日
  

「中東と世界を揺るがすパレスチナ問題の重さ」

 2017年末にトランプ政権が「イスラエルとパレスチナ間の紛争は、イスラエルに問題があるのではなく、イランとテロ組織の問題である」としてパレスチナ問題に対するイスラエルの責任を軽視した。イスラエルは、東エルサレム、ゴラン高原など占領地の併合を一方的に宣言してきたが、トランプ政権はこれも認めてしまった。バイデン政権下でも同様で、これによりパレスチナ問題の根幹が放置され、今日の複雑な状況を生み出している。

 75年前の第一次中東紛争を経て多くのパレスチナ人が国を追われた。パレスチナ人の心情としては、欧州における歴史的なユダヤ人迫害、ホロコースト贖罪の代償を払うべきは欧州であり、「力による一方的な現状変更を認めない」と言いながらイスラエルに対しては例外主義を適用し続ける米欧のダブルスタンダードを疑問視している。

 今回のハマスの攻撃で中東和平は機能しておらず、戦火が拡大して地域紛争に発展することへの危険性など、ウクライナ問題の陰に隠れてしまっていた様々な問題が明白になった。また、互いに共存はあり得ないというゼロサムゲームに回帰してしまった。ガザ地区をめぐる紛争後の構想もイスラエルが事実上占領するのか、パレスチナ暫定自治政府に移管するのか、あるいは平和維持軍が駐留する形で国際管理下に置くのか、明確になっていない。中南米、中東諸国は紛争に厳しい眼を向け、イスラエルとの外交関係縮小の動きも顕著で、草の根的にイスラエルをボイコットする動きが広がっている。

 国連アフガニスタン特別ミッション政務官を務め、タリバン旧政権の末期に和平交渉に従事した田中氏。今回のハマスの攻撃の特異性、イスラエル軍による稚拙な情報戦の詳細、イスラエル国内の先の見えない政治的チキンゲームなどについて様々な視点から詳細に解説。石油禁輸などエネルギー危機への懸念については、「一次エネルギー消費に対する石油依存が低下していることから、かつてのオイルショックのようなことは日本では起こらない」との見方を示した。